第59話 同じ空の下

 2020年2月も半分が過ぎようとしています。

 新型コロナウイルスの猛威はまだ衰えを見せていないようです。

 日本でも感染者が増えてきてしまっています。


 欧米ではアジア人が敬遠されているとも聞きます。

 まあね、中国人も日本人も韓国人も見分けつかないでしょうね。

 ワタシたちだってドイツ人、フランス人、イギリス人って見分けられませんからね。


 国によっては中国から引き揚げてくる自国の人をも受け入れたくないところもあるようです。中国国内でも武漢のある湖北省の人との接触をさけたり、接触したことを申告しなかったりといさかいが起きています。

 前話でお話したとおり、憎むべきは病であって人ではないのにね。


 一方で、先月武漢から帰還して健康観察下におかれていた方たちが所定の期間を経てご帰宅されましたね。日本に戻られた直後は心無いコメントなどが散見されましたが、後半は地元の方たちの心温まる激励の様子がニュースでも伝えられました。

 心無い言動は容赦なく相手の心を傷つけます。

 心を寄せ、心を伝えれば相手にも伝わり、その相手の心をも動かしますね。


 クルーズ船での不自由な生活を余儀なくされていらっしゃる方たちにも「どうか無事で」「どうかこれ以上感染が拡大しませんように」と願うばかりです。


 そんな中、中国のSNSで称賛を浴びたエピソードがあります。日本でも報道されたのでご存じの方も多いと思います。日本からのマスクなどの救援物資を詰めた段ボールに八文字の漢詩が添えられていました。


「山川異域 風月同天」


 ――国は違っても同じ空の下同じ風が吹いて同じ月を見ているよ。――

 ざっくり訳せば昨年の流行語大賞の「OneTeam」でしょうか。

 みんなで乗り切ろうね。頑張ろうね。

 そんな意味をこめて添えられたのでしょうか。

 

 この詩はおよそ1300年前のものだそうです。これを機会に調べてみました。


 持統天皇(天智天皇の娘で天武天皇の妻)の孫の長屋王が唐に贈った言葉です。

 日本から中国にお坊様の袈裟を千枚贈るときにその袈裟に金字で刺繍を施しました。その文字が次の詩です。


山川異域さんせんいきをことにすれども

(私たちは生まれた国土は違いますが)


風月同天ふうげつてんをおなじうす

(天空を吹く風や月には国境はありません)


寄諸仏子これをぶっしによす

(この袈裟を僧に寄進します)


共結来縁ともにらいえんをむすばん

(ともに永遠の縁を結ぼうではありませんか)


 この詩を見た鑑真が日本に行くことを決意したのだそうです。

 何度かの航海失敗を経て来日した鑑真は奈良で唐招提寺を創建します。

 ただ、鑑真が日本に来たときに、この詩を贈った長屋王は謀反の疑いをかけられて自害した後で、ふたりが会うことは叶いませんでした。


 1300年経って今回贈ったのはマスクなどの衛生用品。


 日本と中国には不幸で残念な歴史もあるけれど、平和的な行き来もあります。特に日本は飛鳥、奈良、平安時代など政治・文化・街の造成まで中国をお手本にしました。遣隋使・遣唐使が中国に留学してさまざまなことを学びました。ファッションなど流行だって大陸からやってきました。


 同じ空の下。

 早く病気が治りますように。

 同じ月を見上げて願っています。


 中国語ってニュースや街頭インタビューなどは早口でコントのネタにもなってしまうけれど、詩の朗読などは抑揚があってとても綺麗です。

 中国語で読み上げてくれるサイトなどもあるようです。

 よかったら聞いてみてください。


☆音声リーダー。オンライン

https://ttsreader.com/ja/

山川異域

風月同天

寄諸仏子

共結来縁

(コピー用にどうぞ)

 便利な時代ですね。速度遅めがおススメです。



 世界中で病と闘っている方の1日も早い回復を祈っています。

 そして彼らをケアしている医療従事者の皆さん、本当にお疲れ様です。どうかご自身の感染予防にも注意を払って医療看護にあたってくださいね。

 またその医療従事者の皆さんたちを支える皆さん、物資を生産・配達する皆さんもどうかご安全にお仕事してください。


 報道関係の皆さん、どうか正確で誠実な情報を伝えてください。

「こんなデマが流れています」というニュースを垂れ流さないでください。

 恐怖心を煽るような伝え方をしないでください。


 そして受け取るワタシたちも。

 なんでも鵜呑みにすることなく、冷静に対処しましょう。

 自分や大切な人を守って。

 大変な思いをされている人たちをおもんぱかって。

 自戒を込めて。




 同じ空の下

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