第3話 中国に住んでいました。

 中国に住んでいました。


 帰国してから、こう話すと相手の方はいろいろと想像されるよう。


「ご主人が中国人?」

「いえいえ、日本人ですよ。オットの海外駐在で中国に行っていたんです」


「じゃ、中国語はペラペラね!」

「えっと、それが全然でして……」


「お子さんは? 何語を話すの? 中国語?」

「いえ、日本人学校に通っていたので日本語ですよ」


 等々。

 外国で暮らすということ=ローカルの人々の暮らしに溶け込んで暮らすと思っている方が多いと思う。

 実際、ワタシも中国へ行くまではそんな認識だった。


 オットが日本企業の駐在となると、当然任期というものがある。

 当初の予定通りとはいかない場合も多々あるけれど、いずれは日本に戻るか、他の都市へスライドする。

 子供達の学校の選択肢としては大きく分けて3つになる。


 ひとつは日本人学校。これが一番ポピュラーだと思う。英語圏の国だと事情はまた違ってくるのかもしれないが、中国駐在の日本人家庭では子供は日本人学校に通うのが大多数だと思われる。

 文科省派遣の日本人の先生方が日本語で授業をする。4月が新学期。

 学校行事も日本の学校と同じ。

 先生方が日本全国の学校から派遣されてくるので、日本の学校のいいとこどりのような気もする。それからもちろん文科相の認可のおりている学校なので、日本で使われている教科書が届けられるし、日本国内への転入、進学の手続きもスムーズに行える。

 入学、編入に際して試験はないが、寄付で成り立っている私立の学校なので、保護者の勤務先である会社からの寄付が義務付けられている。会社が日系企業でない場合などは個人で寄付をすることになる。


 ふたつめは現地校。日本人同士の夫婦でこの選択をすることはかなり稀だと思う。

 中国の学校で中国人の先生が中国語で授業をする。9月が新学期。

 外国人クラスもあるらしいが、なんせ身近に行っている人がいないので情報不足。


 3つめがインターナショナルスクール。

 シンガポール系やカナダ系などさまざまな国の学校がスクールを運営している。

 国籍豊かな先生方が英語で授業をする。9月が新学期。

 勝手なイメージだが、アメリカの映画やドラマで見るような華やかなハイスクールライフを想像してしまう。スクールバスが走っていて、乗り降りしているオシャレな制服姿のさまざまなお顔立ちのお子さん達を見ていると、ワタシの妄想は膨らむばかり。

 3つの中で一番授業料がお高い。

 厳しい試験に合格しないと編入が許可されない学校もある。

 通わせている日本人の方もいた。

 幼稚園だけインターに通わせて、小学校から日本人学校という方もいた。逆に日本人学校の小学部を卒業してインターのジュニアハイに入るお子さんもいた。


 我が家はポピュラーな日本人学校を選択。

 確かにインターに通わせて英語が堪能になるのもいいなとは思ったが、一朝一夕で英語が話せるようにはならないし、親にも子にもある程度の覚悟がいりますよと言われ、あっさり断念。

 いずれは日本に戻るので、日本語の教育や学校行事を体験させることに。


 日本人学校は日本の学校と何も変わらない。小学部と中学部があり、小学1年生から中学3年生までが通う。

 先生も子供も日本全国から集まるので、関西弁やら東北弁など全国のコトバが飛び交う。社会の都道府県の授業では、各児童が出身県のことを調べれば、ほぼ日本全国の勉強ができる。

 英会話や中国語会話の授業もあるが、この授業だけでペラペラにはならないんじゃないかな。

 言葉は中国人と日本人のダブルの子やインター出身者や以前に英語圏に住んでいた子などがネイティブに話せるけど、ほとんどの子供たちは日本語のみである。


 学校の中には守衛さんや掃除の人など中国人スタッフもいるが、せいぜいあいさつ程度しか触れ合わないので「你好ニイハオ(こんにちは)」「謝謝シェシェ(ありがとう)」「再見ツァイツェン(さようなら)」の3つのコトバで事足りる。


 ハハ達のおつきあいも自然と日本人ばかりになる。

 日本人と結婚して子供を日本人学校に通わせている中国人ママも日本語ペラペラだし、どこかへ一緒に出かけると頼りになること! なること! 


 習い事として中国語や英語に通わせて、日常会話ができるようになったり、資格をとって帰国するお子さんもいた。ハハでも中国語検定を受けたり、逆に外国人に日本語を教える資格をとっている人もいた。


 食事もたまには中華料理を食べにいくけれど、家の中の食生活は日本と変わらない。

 日本食スーパーで材料を買い、ごはんを作る。

 日本人街と呼べる日本料理屋さんが集まっている通りもあり、そこでも日本食が食べられる。

 電話をすればお弁当を配達してくれる。しかも日本語で受けてくれる。

 アジフライ弁当にから揚げ弁当にロースカツ弁当なんてのが家まで届く。


 住むところも、安全面から24時間守衛さんが管理しているようなマンションに住むように会社が手配してくれる。

 日本人学校に通わせて、スクールバスに乗せたいとなると、スクールバスを出しているマンションを調べる。

 スクールバスを出しているということは、ある程度日本人学校に通っている日本人家庭があるということになる。


 正直に言ってかなり心配な医療関係も、日本語対応で、日本の薬を扱っている日本人向けの診療所に通う。


 食べ物に関しても、さまざまな心配なニュースを聞く中、普段通うのは空輸で日本食材を仕入れているスーパーになる。とはいえ、慣れてくれば地元の市場で野菜や果物を買うことはあったが、すべては自己責任だ。農薬がどの程度含まれているのか、実際のところわからない。


 習い事も日本の大手の塾も進出してきているし、ピアノやサッカーなどは日本人の先生に教えてもらえる。

 習える科目は確かに日本よりは少ないけれど、ある程度は可能。どこの家庭もいずれは日本に帰国するので、それを見越しての生活になる。

 もちろん、中国らしく功夫ゴンフー(カンフー)や太極タイジ(太極拳)などを地元の教室で習っているお子さんもいた。

 中には欧米人の先生からバレエを習っているお子さんもいた。日本だけでなく、さまざまな国から駐在に来ているので、こうした習い事も可能になる。


 これが大都会になると、ほぼ日本並みの暮らしを送れると思う。

 ありとあらゆる日本語の習い事が親も子もあるし、吉野家、はなまるうどん、堂島ロールのモンシュシュなど、日本の有名店の海外店が多々ある。


 そんなこんなで……

 ワタシのオットは中国人ではなく、

 ワタシは中国語をさほど話せず、

 子供達も日本人学校で日本語にどっぷりつかって暮らしていました。


 子供もね、帰国してこちらの学校に転入して

「おとうさんとおかあさん、どっちが中国人なの?」

 って一番聞かれたって。


 ……、ま、いっか。



 中国に住んでいました。






 *****

 すべての日本人がこのような生活を送っているわけではありません。

 中にはもっと地元の方に溶け込んで中国人と同じように生活していらっしゃる方もいらっしゃいます。

 あくまでも我が家の例です。

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