第6章 さらなる高みを目指して!
第31話 野外LARP検証会で野山を駆ける!
ニコさんとの感動もつかの間、今度は2月末に大切なイベントが控えていた。
それは、「野外LARP検証会」である。
これを行うことになったきっかけは、代表のとある言葉から始まった。
「前回の野外LARPで痛感したけれど、俺たちにはまだまだ経験が足りないんだよな……」
そう、私たちには運営スタッフ側として、室内ゲームでのノウハウは豊富にある一方、野外でのゲームに関しては圧倒的に経験が足りない。
というか、まさに前回の野外ゲームが初回だったのだ。
「いやー、ほんとだよね。色々ビックリしたもん。まず、時間が恐ろしいほどあっという間に溶けたよね」
そう、室内ではきちんと時間管理していたのに、野外になった途端、なぜか時間の経ち方が体感3倍くらいの早さで溶けていく。これは大変に恐ろしいことで、ある意味LARPゲームは時間管理が肝になる中、こんなに狂った時間の流れで進んでしまったら、お話にならない。
前回の野外LARPゲームはそういう意味で本当にヒヤヒヤしたが、幸か不幸か、室外で続行不可能なほどの土砂降りにより、慣れている時間の早さで管理できる室内に移行することができた。
たとえ室外で続行していたとしても何とか凌いでいたとは思うが、簡単なことではなかったであろうことは、想像に難くない。九死に一生を得るとは、まさにこのことだった。
それを踏まえて、我々が出す結論は───
「俺たちにはまだ経験が足りないし、サンプルも足りないんだ。それなら、もっともっと経験を増やせばいい。ゲームシナリオを作成しない、純粋な『検証会』を実施しよう!」
というわけで、ゲーム運営側としては実に気楽な、LARPゲーム検証会が実施される運びとなった。これについては前日入りも特にせず、当日気ままに、気楽な動きやすい衣装に着替えるなどして、レイムーンLARPが用意した武器などを使い、野外で様々なシチュエーションを元に遊ぶ流れとなる。しかも、コストマリーさんのお手製ファンタジー風料理を試食できるという豪華特典付き。
ただし、決行は必ず晴天だ。
そして当日。
2016年2月27日、我々はまた、あのフォレストパーティー峰山に足を運んだ。
当日は快晴、寒さはまだあったが気持ちよかった。てきぱきと集まり、早速車であの峠を登り、会場へと辿り着く。
のだが──
登ってくる参加者たちの車に、一足先に到着していたスタッフたちが出迎える中。いやはや、とんでもない大男が、彼らの前に立ち塞がったのである!
「あ、ベーテさんだー!!」
第1話でもちょこっとだけ登場した、ベーテ・有理・黒崎(※第1話注釈3を参照)その人である!!
彼は元々は、ライターになる前から、それこそ10年前からの著者および代表の友人だ。今回はたまたま、検証会の実施日についてお話した所、「参加したい」という希望を頂き、元々中世ファンタジーLARPゲームをやりたかった有理さんとしては悲願の参加となったのだった。
ちなみに、そんな彼の容姿はというと、山のように大きな身体、豊かに蓄えられたちりちりの口髭、少しアジア人の顔とは違う西欧風の容姿、薄い茶色の優しい目がチャームポイントである。イメージとしては、大きくなったドワーフを想像して頂きたい。
そんな男が、車で坂を登りきった先にデデンと、山賊な姿の代表や、騎士姿の槍さんの隣に突然立っていたのだ。バイキングもかくやと言いたくなるような二本角の兜を着て、衣装もきちんと中世ファンタジー風にして、である。そのインパクトたるや、相当なものだっただろう。
「えー、ベーテさんいるなんて聞いてなかったですよー!」
「いやー、やっぱりこういうのはサプライズかなーと思ってね!」
実は今回は、レイムーンLARPメンバーの他に、内輪向けという形で著者の知り合いの方々も参加している。そんなことはおくびにも出していなかったので、嬉しいやら驚くやら、といった顔で非常に著者は愉快であった。(確信犯)
「さて、それじゃー早速、検証会と行きますか!」
ここでワイワイやってるだけでも、野山の時間というものは恐ろしいほどに感覚をくるわせてしまう。ちゃきちゃきと着替えてもらって、我々は数ヶ月前にも走り回った、外の広場へとやってきた。
ここで何をやるのか?
まずは、野外戦闘での時間の進み方についての調査をすることにした。まずフィールドを3つに分け、プレイヤーたちは二組に分かれる。そして、予めスタッフによって隠されたオブジェクト(ビニールボールサイズ)を探し出し、ボールを奪い合う。たくさんボールを集めた方が勝ち、という簡単なルールだ。
そしてこのルールには、レイムーンLARPではお馴染みのチャンバラルールに加え、魔法使いで挑んできた人には魔法使用を許可している。それこそ、チャンバラでどうにもならなくなった時の一撃必殺!! 状況をひっくり返すような戦況を楽しめることだろう。
しかも、このゲームルールはもう一つの検証も含めている。それは、オブジェクトを探し出すことが出来るかどうか、だった。隠す場所はもちろんのこと、色合いとして見つけやすいものはどれだろうか、といったことまで検証する。
実際、野外LARPでも探すようなクエストはあったのだが、ほとんど見つけることができなかった苦い経験があるのだ。これは検証すべきだろう。
このゲームは大いに盛り上がった!
それぞれが武器の間合いを体感しながら、距離をとり、野外ならではの天井の無い広いフィールドを縦横無尽に駆け、武器を振り回す。そのどんなに楽しいことか、想像に難く無い。
そして予想通り、時間が経つ感覚が室内よりも違い、2時間などあっという間に過ぎていくのだ。これはやはり、広いフィールド、豊かな凹凸や坂道、広いからこそのもっともっと複雑な戦闘の仕方が出来るからこその副作用だった。室内よりも2〜3倍の余裕をもって、戦闘シーンに挑まねばならないことがわかってきた。
また、オブジェクト発見についても興味深い検証結果が得られた。
時間帯によって、色の見えやすさに違いが出てくるのだ。緑や青は総じて見つけにくく、昼間は黄色と赤色が比較的見つけやすかったのだが……夕方になると、赤色がほとんど見えなくなってしまったという。
以上から、黄色がオブジェクト探しには適していることが結論づけられた。
休憩の間にも、武術経験がある方から立ち回り方について皆で突発でレクチャーをしてもらったり、守られていたはずの
そうこうしていく内に日も暮れるわけだが、なんとコストマリーさんによる篝火&焚き火のサービスにより、宵闇の中での戦闘という非常にレアな経験ができた!!
パチパチと爆ぜる音が聞こえ、炎の揺らめく灯りの中で、一対一の勝ち抜き戦を行ってみたのだが、これが雰囲気抜群!! まさに中世ファンタジー!!
この時点でかなり気温が下がっており、体も疲弊していたはずの皆は、その興奮により全く疲れを感じていなかったという。最終的には、身体面を考え、スタッフの方から強制的に小屋に戻ってもらったほどだ。2時間くらいやっていたのではないかと思う。
そしてクタクタになった皆の前に出されたのは、ほかほかと湯気立つ美味しい中世ファンタジー風料理の数々だ! 野外LARPで出された料理はエルフをイメージして作られたらしいが、今回はドワーフ料理をイメージして作られたそうで───
ゴロゴロ肉と赤ワインで煮込まれた温かいシチュー、ローストビーフ、ローズマリーにより香り付けされたキノコと蒸し焼きソーセージ!!
燻製チーズや玉子、手作りバームクーヘン!!
さらには、参加者さんの中で燻製スキルを持つ方が作られたおいっしいベーコン!!!
嗚呼……今思い出すだけでも、著者にとっては飯テロである。(じゅるり)
このような豪華な食事とともに、京都の老舗蜂蜜専門店ミール・ミィさんの極上なポーランド産
皆思い思いに酔っ払いながら、楽しい話で盛り上がる。やはり宿泊イベントの成功には、旨い飯と旨い酒だ。これは欠かせない。
そんなこんなで、昼間の心地よい疲れも相まって、皆早々に就寝することに。朝起きたら、あんなに動いていたので筋肉痛はあるものの、その爽やかな朝といったら……本気で楽しいことをして、美味しい飯と酒にありつけると、人はこんなにも回復するのだろうかと思ったほどだった。(これは誇張じゃなくガチだ!)
それに、この検証会は、実際にやってみるまでは普通に検証会として、「楽しくやろうよ」程度の気持ちではあったのだが───参加者たちの満足度がこちらの想定以上であったため、今後も開催していこうという運びになった。(オープンイベントではなく、あくまでクローズドになるとは思うけれども)
何より、シナリオを考えなくて良い分、運営スタッフとしても気楽なのだ!
「また、良い野外LARPゲームが出来るといいねえ」
イベントが終わり、山からの帰り道。
ぽつりと呟いた私に、代表はにっこりと笑う。
「そのためにも、たくさんしっかり検証していかないとね。積み重ねていこう。俺たちは今までも、そうしてきた。これからもきっと、そうして行くだろう」
「うん、そうだね!」
もう見慣れてきた帰り道のアクアライン。その水平線を眺めながら───
こうして、野外LARP検証会は無事、大収穫の後に終了したのだった。
なお、このイベントのリポートはこちらのトゥギャッターにてまとめられている。是非、読んで楽しんで頂きたい。
【リアル中世ファンタジー体験】
千葉県君津市で野外LARPゲーム検証会をやってきた
http://togetter.com/li/945026
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