第3章 LARPサークルのスタート
第12話 あわや全滅!?はじめてのLARPスタッフ
来る2013年5月某日。
ついに、我々はレイムーンLARPの記念すべき第一回目のゲームを行うこととなった。ワークショップにより、頼もしいスタッフである藤咲マダム(※1)さんを迎え、我々のボルテージはMAX!! さらに、コストマリー事務局(※2)さんの手堅い人脈によりさらなるNPCの確保も出来、準備は万端!!
※1)藤咲マダム…名前からうっかり女性と間違えやすいが、れっきとした男性。寝る前ついでにクッキーを焼いたり、ご馳走レベルの鍋を作れたりと、溢れ出す女子力が名を表すのか謎。シナリオ作成時に意見がぶつかりやすい星屑と著者をやんわり諌める姿に定評がある。イラストレーターでもあり、萌え絵とは一線を画す力強いキャラクターを生み出す。
※2)コストマリー事務局…西欧中世イベント企画のベテランで、主催は
とはいえ…
初めての、おそらく非営利個人サークルとしては日本初となるこのゲーム。スタッフもみんな、LARPゲームのスタッフ経験は未経験だ。これはかなりのプレッシャーとなった。ちゃんとしたゲームができるのだろうか? いやむしろ、かかる時間がさっぱり見当つかないのでは?
「これはマズイ…」
そこで、メンバーには連絡網として作った
・今後のゲームクオリティを高めるために、初回ゲームはテストゲームとしたい
・時間はおそらく一番短めで、午後3時前には終わる(ゲームスタートは午前11時)
・ゲームバランスは未知数なため、そこを加味して参加願いたい
これも、日本初のスタッフとして質の良いゲームを作るようにするためだ。これに対してメンバーは、快く受け入れてくれた。事実、このテストゲームがその後のゲームバランスの要になったと言える。
さて、肝心の時間配分だ。準備、ゲーム、昼ごはん、片付け、撤収という流れは、どのゲームにも共通して言える流れになる。(※3)
※3)…ちなみにスタートが昼前だと衣装を着ている状態になってしまうため、よほどでもなければ昼ごはんは中で食べた方が良いので、中で食事ができる施設を採用している。(着物や現代衣装なら大丈夫かもしれないが)
この時間配分が曲者で、間違えてしまうと尻切れトンボになって終わってしまうという事態になりかねない。予算に余裕があるならば、全日予約を取ってしまうのも一つの方法だったのだが、非営利サークルの会費では正直厳しかった。
利用時間は午前9時から午後5時。この8時間までに全てを終えなければならない。
ゲーム当日はこのようなスケジュールとなった。(なお、このスケジュールは今後もそのまま変わらず進行される)
9:00 スタッフ集合、入室、初期配置準備、着替え
9:30 駅組待ち合わせ集合、会場へ出発
10:00 全員入室(車組はこの時間)、参加者着替え、チェックイン
11:00 ゲーム前半開始
11:30 お昼ご飯(ゲームから現実世界に一度戻ります)
12:00 ゲーム後半開始
15:30~16:00 ゲーム終了、経験値配布、着替え、後片付け
17:00 完全撤収
テストシナリオは中世ファンタジーの王道として、ゴブリン退治のシナリオにした。冒険者の店に依頼が来て、遺跡に住み着いたゴブリンたちを倒してほしいという簡単なものだ。ダンジョンの構造もシンプルに3部屋、直線で進むだけ。その中で、扉に鍵と罠を設置したり、少しだけ隠し通路を作ったりして、どれだけ時間がかかるのか、どれだけ複雑だと面白いのかを試すことにした。
さあ、午前9時にいよいよスタッフが集結する。著者とマダムさんが原付とバイクから荷物を運び出し、会場を設営する間、星屑は駅前で参加者たちを案内する。この時のゲームは、PC8名、NPC11名という大所帯となった。(後にも先にも、このような規模の参加者が集まるのは2年後以降になる)
どやどや、と会場に入ってくる参加者たち。皆、ゲームの楽しさに高揚しっぱなしだ。海外から購入した、または手作り品の武器や防具を披露し合い、殺風景な白い壁と床の公共施設は、たちまち冒険者たちの熱気で溢れた。
「これ、かっこいいですねー!」
「結構高かったんだけど買っちゃったんだよね〜。海外のやつ」
「うわー、すごい!!この革鎧、作ったの!?」
「革細工得意でして…えへへ」
「こっちは古着を合わせただけだけど、それっぽいでしょ?」
「うんうん、割と冒険者になってる!」
「結構、服装が変わっただけで、テンション上がるもんだね!」
楽しいトークに興じつつも、武器と防具の安全チェックを行い、いよいよゲームスタートだ!
冒険者の酒場で飲み交わす冒険者たち。昼まで寝てしまい、仕事を取り損ねたという設定だ。そこで、著者が扮する女将さん、グレイスが喝を入れる。
「なーにやってんだい、あんたたちっ!」
「あんたたちは店の顔なんだから…信頼してるんだよ」
「なあに、こんな時は良い仕事が向こうから現れるのさ!」
このグレイスというキャラクターは、最初のスタート地点である冒険者の店にほぼ必ず配置される。女将という立ち位置を活かしながら、冒険者たち同士の交流を深め、なかなかゲームに入り込めない、恥ずかしさが先に立ってしまう冒険者の背中をそっと後押しして、よりPCとして話しやすくしてあげる。これは何より重要で、実は繊細な部分でもある。
そんなグレイスとワイワイ話していると、魔術師ギルドのアランが扉を叩く。怪しい古代遺跡を探索したいのだが、ゴブリンがいるので退治してほしいという依頼だ。しかも、判明している範囲での地図までくれるという。見る限り、その地図はたった3部屋しかない簡単なもの。
二つ返事でOKする冒険者たち。そして繰り広げられるダンジョン探索だ! 電気を全て落とし、ちらちらと揺れる小さな電気ローソクをたくさん点けて、
ぴちょん…ぴちょん…
という洞窟内で水が滴り劣るような音をiPadから流す。もうこれだけで立派なダンジョンだ。さらに、下位古代語(=この世界では英語の表記)で、この遺跡が何だったのか、どういうものだったのかを推測する。ここはリアル英語知識が必要だが、無くても進めるし、得意な者が担当し、苦手な者は別のスキルを使えばいい、とだんだん立ち位置が固まっていく。
そう、レイムーンLARPのゲームは、1人が無双を行うゲームではない。
また、1人が皆の活躍をすべて奪うゲームでもない。
全員が得意不得意を別担当しながら、一丸として取り組んでいくゲーム。
それを、体で感じ取ってほしいとスタッフは願っていたが、信じられないほど自然に、冒険者たちは助け合って進んでいく。
そのうち、ラスト戦闘が訪れる。ホブゴブリンと、ゴブリン9匹の群れとの大戦闘だ。ここが、一番のクライマックスになり、華々しい冒険者たちの活躍が──
活躍が──
訪れるはず、だった。
気がついたら、冒険者たちの死屍累々が。
追い詰めるホブゴブリンとゴブリン数匹が。
追い詰められるは、
この時、GMである著者は思った。
そして血の気が引いた。
(──間違いない。
このままだと、間違い無く、疑いようも無く、全滅する)
当然スタッフと共に、NPCたちも初体験のゲームだった。戦い方もまた未経験。手加減をしているつもりなれど、彼らを責められないとしても。どうしても、こいつは全滅止む無し、という構図に成り果てていた。
GM「(やばいよおおお!! これやばいよおおおおお!!!!!)」
NPC1「(わかってるわかってるうううこれやばいやばいアヒャヒャヒャヒャ)」
NPC2「(これはまずい!! 意味無く俺は武器をぶん回して隙を作るぞぉぉぉぉ!!!!)」
もう、必死のアイコンタクトを交わすGMとNPCたち。相当必死。
PCたちに甘いと思うなかれ。我々は最初から何度も書くように、別にPCたちを圧倒的な戦力ですり潰すことを楽しむわけではない。あくまで、『楽しんでもらうために』NPCとして戦っているのだ。というか、そうしていきたい。少なくとも、レイムーンLARPでは。
すんでの所で敵NPCたちが我に返ってくれたおかげで、急に隙だらけになったホブゴブリンとゴブリンたちをなんとか打ち倒し、辛くも冒険者たちは勝利した。ちなみにこのゲームでは倒れたと言っても死亡状態では無く、出血状態(放置しすぎると死亡)なので、すぐさま医術スキルで治療祭りと相成った。
予想通り、時間としては午後3時前に終了という短時間のゲームで、全滅寸前ではあったが、参加者たちの満足度はかなり高かったようだ。
「楽しかったぁぁぁぁ!!!」
「これやばいね!まだ参加したい!!」
「もっとスキルを構築し直したいなあ」
「次はもっとうまくやるぞー!!」
このテストゲームで、我々は確かな感触をつかむ。
(これは、いける!)
かくして、レイムーンLARPの定期ゲームは、本格的な始動となった。
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