第7話 サークルの運営を考える 〜運営の土台

 少し前後してしまったが、そもそも私たちはサークルを運営していかなければならない。まずは土台を形作る必要がある。最初に考えたのは、どんな形式でサークルを活動していくかだった。星屑は顔をしかめてこう話す。


「俺は週5日で働いてるし、福祉職だから結構肉体的にハードなんだよね…ある程度無理の来ない感じにしたいな」

「そうだね、こういうのは継続することが何より大切だと思う」


 非営利個人サークルだから、プライベートや仕事を圧迫することはできない。だからこそ、月に一度が限界だろうという結論に至った。月一でシナリオを毎回作成しながら、スタッフがNPCノンプレイヤーキャラクター(敵や町の人など、物語を進める上で運営側に従い行動するキャラクター)やGMゲームマスターとなり、サークルメンバーがPCプレイヤーキャラクター(いわゆる物語を知らずに遊ぶ冒険者たち)となり、物語を紡いでいく…という形に整えた。


 さらに、カーミニアで感じた問題点を洗い出す。カーミニアは本場ドイツ式LARPゲームを採用しており、それは構わないのだが、以下の点が気になっていた。全て、おそらく「日本人だからこそ」違和感を感じた部分だと思われる。


・プレイヤー人数が多すぎて、群像劇になりやすい

 カーミニアの参加者は毎回20名前後。全員が物語の概要を知らないままクライマックスに突入してしまうため、物語の真相すらたどり着けないままということも多かった。これは物語性を欠き、結果的に不完全燃焼を感じることとなったため、レイムーンLARPではプレイヤーの最大人数を7〜8名までとし、ひとまとまりに動く、または分かれるとしても2つまでに自然となる環境にした。結果的に、冒険者の店で依頼を受けて動く冒険者のパーティーという構図が一番しっくりくる形となった。


・小道具は毎回凝っているが、一回限りの使用が多すぎてコストが高い。

 これは大道具にも言えることだが、使い回しが少なかった印象だった。これを毎月行ってしまうと、コストが嵩んで大変なことになる。レイムーンLARPではそれを防ぐため、小道具は使い回しがききやすく、大道具は(公共施設内ということもあり)極力参加者の想像力で補うという方式に変更した。これは同時に「屋内の会場ならばゲーム世界は屋内、屋外の会場ならばゲーム世界は屋外」という海外LARPゲームの常識を覆す表現が可能となり、屋内はもちろん屋外や、洞窟、遺跡など、無限のシーン表現を可能とした。iPadから流すBGMやSEは潤沢に取り揃え、「酒場内の人々の騒ぎ声」「街の中のざわめき」「洞窟内での水の滴る音」「夜の森の音」「川のせせらぎ」や、「大勢の悲鳴」「破壊音」「邪神召喚の大勢の詠唱」「暗黒司祭のスピーチ」など、臨場感を演出する音をたくさん流すようにした。


・タイムインを一度すると、ゲームが終わるまでタイムアウトできない。

 3〜4時間ずっとキャラクターとして演じ続けるのは辛く、また、日本人の特性として個別に休憩を申請しづらい空気があった。レイムーンLARPではそこを解消するため、室内をパーテーションで区切れる会場を選び、片方のシーンを準備している間に休憩してもらうなど、無理のない休憩を全員で取れる時間を増やした。また、シーン制を導入し、映画のカットのような、場面やシーンをタイムイン・タイムアウトで区切ることで、一度現実に戻り一息つける間を設けている。(これは没入感を損ねるなど賛否両論が発生しそうだが、少なくともメタ視点を割と緩く受け入れられる民族性である日本人はこの形式を好むように筆者は感じる)


・プレイヤーが聞いたことを大きく誤解し、ミスディレクションが発生した場合に、GMが放置してしまう

 これは後々にシナリオ上の事故になりやすいのだが、ドイツ式LARPゲームとしては、「プレイヤーたちが聞いたものをそのように捉えたならば、自然に任せる」方式をとる。しかし、レイムーンLARPではそれが結果的に物語の楽しさを損ねるのはスタッフも参加者も望まないであろうと考え、大きな事故になりやすいと判断した場合はGMの方から訂正を入れることを設けた。


・敵役のNPCがかなり強く、勝つことが難しい

 これはチャンバラ戦闘であったためもあったと思うが、敵が思いの外強く、なかなか倒せずにリソースを削ったり、全滅してしまったりすることが発生した。ある程度のスリルを楽しむためにも敵が弱すぎるのは問題かもしれないが、かといって物語を楽しむ上で敵が強すぎて障害になりすぎるのもストレスが溜まる要因となる。レイムーンLARPでは敵の強さのバランスは慎重に対応することにした。参加者たちは必ず事前の予約表明をしてもらうことでPCの強さと特性を毎回把握し、無理のないようゲームが進行できるように努めている。


・NPCによる勝手な判断や行動が見受けられた

 これは「あるがままに任せる」ドイツ式ゲームならば仕方ないのかもしれないが、運営スタッフ側がNPCと密に打ち合わせができているのか、少々疑問な所があった。それが結果的にミスディレクションになってしまうこともある。ゆえに、レイムーンLARPでは重要な情報を渡す役目であるNPCの参加については、基本的にスタッフ側の友人とし、逆に重要では無い、戦うだけである程度OK・打ち合わせもあまり必要で無いものは初回参加OKとした。また、没入感を損なうことも承知の上で必ず名刺大の「台詞カード」を各NPCに渡す。これを見ながら話すことにより、情報を間違えて渡したり、渡し損ねたりすることを防ぐことができると考えた。


 ここで誤解が無いように書いておきたいが、私たちはドイツ式LARPゲームを否定する意図は一切ない。しかし、少しでも多くの日本人が楽しめるものにするためには、ある程度日本人用に「魔改造」することは必要だと思うのだ。レイムーンLARPは今後も、和製LARPゲームという無理のないプレイの仕方を確立したいと思っている。


 また、サークルの中のスタッフとしての役割も考えなければならない。代表は著者とし、星屑はシナリオ作成の補佐に回る。特に星屑は先にも書いたが元々の仕事を週5日でこなしていたため、ほとんどの雑務(経理会計、連絡、参加者管理、小道具・衣装管理、小道具作成、シナリオの骨格作成、Web管理、広報)は著者が一任する(これは、著者がたまたま個人事業の、時間に融通が利くクリエイターであることもあり、この役目となった。本来はもう少し分担しても良いと思う)。ドイツ式LARPゲームではGMは10人につき1人とされていたが、さらにしっかりと対応するため、レイムーンLARPでは5人につき1人とした。(つまりは、主宰であるゆーと星屑がGMになるわけだ)


 次に必要になるのは、衣装と小道具の管理だ。これは、ほとんどが元々著者の趣味として持っていたものが多く(カーミニアのために揃えた古服やティンタジェルで購入していた西洋中世衣装やナチュラル・アンティーク系雑貨がそれにあたる)、流用できた。足りないものは100均や、コミケで購入したものを活かしている。1コインでレンタルできるシステムも用意したため、足りない衣装は自作する必要があったが、これもサーコート(貫頭衣。ドラ○エで勇者がよく着ているアレ)を複数自作することで対応した。長方形の布の真ん中に穴を開ければ出来上がり!お手軽だが、一番簡単にそれっぽくなれるのだ。レイムーンLARPは基本的にチャンバラ戦闘なので、衣装が破れたり壊れたりすることに頓着する必要がない気楽さも良かった。


 そう、1コインレンタルシステム。これは画期的なアイディアだった。LARPゲームは多くが日本において「衣装を集めるのが面倒」「費用がかかりそう」というマイナスイメージを強く出しやすいため、フリーハンドで来てもゲームができることを前面に打ち出し、問題性を緩和することができる。


 ただ、問題となるのは別にある。武器や防具だ。こればっかりは作れる技術を持つスタッフがおらず、既製品に頼らざるを得ない。元々二人がカーミニアで遊ぶために買った装備があったため、それを流用しつつ、少しずつ揃えていくということになった。また、スタッフも私と星屑だけでは到底できる気がしない。スタッフも募集したが、この時点では満足に集めることはできず、後述のメンバー募集目的である最初のワークショップまで待つことになるのだった。

 ここまで考えて、我々はハッと気付いた。


「あっ。そうだ…会費、どうしよう? そもそも、会場は?」


 いよいよ私たちは、サークルを立ち上げる上で一番の課題に取り組むことになったのである。

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