第52話 星屑とゆーが冒険者に! 初のメンバーGMゲーム

 昨今は、CLOSS業務やらLARPイベントやらに追われ、レイムーンLARP運営はともかくとして、シナリオ作りにとんと時間を割くことが難しくなってきた。シナリオ作成者は誰かって? その最初の一歩を作るのは──


雛咲なんだよおおおぉぉぉ……!!」


 分かってはいた。毎月シナリオ新作を作り続けるのがどれだけ大変なのかってことくらい分かっていた。限界ではない、しかし、一日24時間が増えることもない。CLOSS業務に著者の作業が深く関わっていたこともあり、いよいよシナリオ作成が大変なことになる……そんなことを予感していた、その時だった。


 ぴろん♪


 とツイッターDMが鳴って、開いてみれば──それは、神の助けだった。


「ゆーさん、星屑さん、プレイヤーそろそろやりません?」

「今までずっとGM、お疲れ様でした。二ヶ月くらいしかできないのですが、交代でプレイヤーやりましょう!」


 それは、我らがレイムーンLARPメンバー、克兎さん(※1)とMarryさんのお誘いだったのだ。


(※1)克兎……なんと、ネットのまとめサイトでたまたま見かけて、野外LARPに飛び込んだ謎解きクラスタ。そのままどっぷりLARPの楽しさにぶくぶく潜水している。もともとはゲーム関係の仕事をしていて、ゆーや星屑が気付けない角度での意見が輝く。全く関係ないが、先日カラオケで唄声を聞いたらとんでもなく上手でビビるレベルだということを追記しておく。


 そしてこれは、福音ともいえる代物。なぜなら!!

 我々、著者と星屑は──GMをやりすぎて、からだ!!


「いやいや星屑さん、かなり深刻ですよこれは」

「うむ。いや、ほんと、最近は『先が分からない怖さ、ワクワクさ』が分からなくなってきてたもんね」


 当然なのだが、シナリオを知らない人間は、未来に起こる展開を知りようがない。

 知りようがないので、知らないんだという前提で作る配慮が薄くなってしまいがちなのだ。


 これは、かなり、困る。


 というわけで、我々は二つ返事でOKし、著者と星屑がプレイヤーとサブGMを交代しながら、メインGMは克兎さんにお願いし、彼のオリジナルシナリオに挑むこととなった。


 さて、最初は私が冒険者プレイヤーになれる! わくわくしながら装備を整えていくと、出るわ出るわ、プレイヤーになったら使いたいと取っておいた道具の山!


「3年越しでようやくプレイヤーかぁ……3年も眠ってたんだねえ、これ」


 思い起こせば、運営するスタッフやNPCで済んでいたので、荷物もかなり少なかった。今回はPCプレイヤーキャラクターになれるということで、荷物もどっさり、腰回りも重い。しかし、この重さにどれだけ憧れただろうか。このズッシリ感が、今はとても心地よい。


 私のキャラクターは元々カーミニアLARPで使っていたPCを容姿そのままに作り変えることにした。本当はエルフにしたかったけれど、ルール上うまく作れず、ハーフエルフに作り直す。


 名前は、モニカ・リュンクス──レイムーン地方西方の土着信仰、酒と祭と喜びの神アレグリアの神官だ。天涯孤独の身でアウルムの盗賊ギルドに拾われたが、手段を択ばない方針に馴染めず飛び出し、プラータ王国をさ迷った末、アレグリアに啓示を受け、神官となった。眠りの毒薬作成に優れ、人を殺す積みが生まれることを少しでも減らすため、プラタ盗賊ギルドに眠り薬を渡している。(プラタ盗賊ギルドは「暗殺部門以外の殺人の不許可」 「強盗は認めない」等のルールを設けているのだ)


 そんなキャラクターを、ゲーム当日を迎え、活き活きと動かす楽しさよ! 創り上げた人物がきちんと世界に影響を与えていく事ができる上に、先の展開は全く分からない……そう、なーんにも分からない!! 自分の判断が吉と出るか凶と出るかは、自分の行動次第で、誰にも予測などできないのだ。


 嗚呼、この楽しさ。嗚呼、このスリル。

 私は、私は、これを待っていたのだー!!!


 自己判断で動くしかない以上、情報は金の価値があり、仲間との連携は宝となる。仲間と関係を構築していきながら、協力していきつつ、話の齟齬が出ないようによーく話す。プレイヤーとしては当たり前の行動だろうが、今までGMばっかりだった私には、どれもこれもが眩しかった。


 映画や物語の世界に身を投じる──とは、よく言ったものだ。私たちは神の視点から普段鑑賞していて、第三者視点で理解し展開を予測することもできるが、主観視点だとそうはいかない。ロード・オブ・ザ・リングだって、バイオハザードだってそうだ。フロドであったならば、あんな山の奥の溶岩に指輪なんて捨てられるものかと何度も絶望し、もう無理だと嘆いただろう。アリスであったならば、目覚めたら町がいて、「これからどうすればいいの?」と膝をついて泣いたかもしれない。


 しかし同時に、その物語は自分自身が決めるということも出来るのだ──例えば、モニカが、本来邪悪であるとされるアルラウネ(植物モンスターの一種だが、登場時は変質していて邪悪とは言い切れなかった)の傷を、独断で癒し、森に帰すということを行った。そこで、1つのドラマが生まれていたのだ。台本の一切ない、しかし「これこそLARPだろう!!」と言い切れる、輝く物語が紡がれる。これこそ、LARPの醍醐味と言えるだろう!!


 あと、例え経験値をガン積みしてとんでもなく魔法を唱えられても、中の人次第、プレイヤースキル次第になる。何を言いたいかというと、結局どれだけ魔法の天才であったとしても、戦闘時にワタワタしていれば魔法発動の判断も鈍くなるし、逆に即断即決ができれば、大きく戦局が変わる一手も打てるのだ。良い意味でも悪い意味でも、プレイヤースキルに委ねられる。それがまた、なのである。


 なんだかんだで、シナリオそのものは依頼達成、どうやら大団円を迎えられたようだった。久々にPCになってみて、新鮮な様々な気持ち、気付きを得られた。これは何物にも代え難く、何より、メンバーの力がなければ成立できないことでもあった。克兎さん、Marryさん、それから協力頂いた沢山の方に心から感謝したい。


 翌月は星屑がPCとなり、私がサブGMを担当した。これは本当に楽しかったと後に彼は語り、彼の演じるキャラクター流浪の剣士ジンは、ひときわ輝いてゲームに臨むことができたようだった。そして私と同じく、様々な気付きを得てゲームを終了できたという。


 今回やってみて痛感したことは、本当に、LARPゲームのGMを続けている方は、一度立ち返り、PCになれる機会を作ると良い、ということだ。PCの感覚を取り戻しておかないと、今後シナリオ作成面で少しずつPLとの齟齬が生まれていくだろう。これはGMの中では本当に気付けない微かな齟齬なので、余計に重要さが分かりにくい。それがまた、小さな毒が大きな毒に変わっていく怖さを感じるのである。


 これからはレイムーンLARPでも、私たちがPCになれる機会が少しずつ増えていくだろう。そうなった時に、どんな豊かなシナリオアイディアが生まれていくだろうか……その時をワクワクしながら、私は待ちたい。

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