第45話 開け、異世界への扉!!ファンタジー村にGO!!

 きっかけは、なんてことない一言だった。

 レイムーンLARPメンバーである、槍さんのポツリと放った一言───曰く、


「ファンタジー村、いつか体験したいなー」


 ファンタジー村。

 中世ファンタジーの村。


 その甘美な響きたるや。


 エルフやドワーフ、小人族たちが人間と一緒に住まい、衣食住を以って生活し、清らかな水と、光、そして緑と共に暮らして行く世界。村。ファンタジー村。


 とはいえ、できるかなー、場所があればねー、等と、我々は時間とにらめっこしながら考えていた。正直、CLOSS主催としてするには、かなり無理のあるスケジューリングだったのだ。


 そこで───


「やります、ファンタジー村!!」


 なんと、このエッセイではすっかりお馴染みなコストマリーさんが、皆の願いを背負い、果敢にも立ち上がったのである!!


「今回はテスト開催です。ですので、小さな内輪でやるイベントとしたいと思います」


 ひとまず内輪でやって見て、意見を聞いたり、今後の参考にしたいというのである。さすがコストマリーさん、研鑽を重ねたプロの考え方だ。


 もちろん我々も参加待った無しである! まさに、とある日本のキャンプ場にて、リアル異世界の扉が開かれるというのだから素晴らしい。ワクワクしながら待ち望んで、いよいよ当日!!


 参加者たちもレイムーンLARPメンバーや、香川県のダンデリオンLARPの代表ユイエさんファミリー、いつもの(?)メンツに加えて、著者がデザインフェスタで偶然お知り合いとなった現代の魔法使いこと、ほしくず堂の「レイくん」(※1)が参戦という、本当に豪華メンバーだ。異世界ゲートが開かない方がどうかしている。


 (※1)ほしくず堂のレイくん…レイまでが正式名称。本業は絵本作家だが、「リアル世界の物語は絵本の物語に反映され、影響されていく」「本物の物語を紡ぐ」という事を信条とした本物の魔法使いでもある。今回は革細工等の行商と共に、カメラマンとして特別参戦して頂けることになったのだった。


 というわけで、我々は鼻歌混じりに、慣れない山道をぐりんぐりんしつつも、ようやくキャンプ場に訪れることとなったのだ。


「うわああああ……!!」


 この感動を、私は忘れないだろう。

 もう、情景からして中世ファンタジーなのだ。


 小さな川がちょろちょろ流れていて、そこここに、こじんまりとした橋がある。小屋の屋根には蔓が茂り、緑で彩られていた。小川は中央の池に集まり、キラキラとした水面の中には銀色の魚、虹鱒にじますが泳いでいる。


 高低差はあるが、しっかりと作られた道、階段、どれも多少人工物でも、世界と調和できるようにデザイン配慮されている。しっかり演技戦闘できる適度な広さもいくつか確保できるし、何より写真映えがスゴイ。どこに立っても、何をしても様になる!


「すごい。こんなところ、よくコストマリーさん見つけてきたなあ……!!」

「とんでもなくポテンシャル高いよねここ」


 しかも、トイレもしっかりキレイ。公衆トイレの施設などは、きっと汚いに違いないと警戒して入ったけれども、悪臭どころか新品のような美しさである。著者は類稀なる「トイレが清潔じゃないと本気で我慢ならぬ症候群」なため、この美しさには恐れ入った。トイレは大切なのである。


 キャンプ場の良さはこれくらいにして、さあ、いよいよ着替えよう。皆、いそいそとそれぞれの小屋に入り、衣装を取り出す。ある者は魔法使いエルフに、ある者はハープを手にした吟遊詩人小人族に、ある者は騎士に、ある者は盗賊に……!!


 著者もしっかり元気者エルフとなり、長耳もしっかり装着して、外に出ると!!


「お、お…おおお」


 なんということだ。


 私が今まで見てみたかった、中世ファンタジーの世界がそこにあった。


 様々な種族の者たちが、その衣装で、思い思いに野を駆け、自然に触れる様は、まさに冒険の一幕だ!!


 そこからは加速である。楽しさの加速である!

 まず、何はともあれ釣りだ。虹鱒を釣るのだ!! と、著者こと元気エルフモニカは釣り竿を引っ提げ、釣りハントに一直線。しかしなかなか釣れない!


「あ、やった、釣れたー」


 と騎士ハルバードが喜べば、


「なんですとー!?」


 と慌てふためき、


「お、また釣れた♪」


 と緑服の精霊使いケラススが喜べば、


「なんでやー!?」


 と悲しみの叫びである。

 しかしまた、この釣れない状況というものもまた楽しい。オイシイ。


「ふぬ……へ、平常心平常心……」

「モニカ、まだ釣れてないの?」

「うぐう」

「ほら、パンはこうやって捏ねれば取れにくいよ」


 と、騎士と精霊使いに情けなくも指導頂き、なんとかかんとか、1匹釣れた時の嬉しさといったら、もう。涙ものである。


「やったああああ!! 釣れたあああああああ!!!」


 写真撮影するレイさんの前でドヤ顔!


 しかし、ただ釣りをするだけなのに、衣装を着替えて異世界の住人になることによる楽しさは筆舌に尽くしがたい。見た目だけで物凄い眼福感。


 そして次は戦闘訓練だ。ここは、星屑扮する山賊の親分が、「演技戦闘講座」を開いてくれた。ここでは、森の匂いと風の感触、土の柔らかさを五感で感じつつ、広い場所で好きなだけ戦える。しかも、LARP演技戦闘を実践した男の指導を受けられるのだ。


 ここで、ダンデリオンLARPのユイエさん夫妻は演技戦闘を学び、ついでにかっこいい写真もバシバシ撮影。レイさんももちろん、レイムーンLARPメンバーの五味さんは素晴らしい構図を作り出し、クオリティの高い写真をたくさん産み出してくれた。


 その後はご飯時間まで休憩だったのだが、実はこのあたりまでに雨が降り始め、そして本降りに。時たま小屋に避難する我々。今回裏方として頑張ってくれたガチコックのZAPさん、PKEさんの小屋にて即席ながら、暖かく美味しいお茶とクッキーを頂き、幸せ夢気分だ。


 今回は中世ファンタジー村ということで、クッキーも手が込んでいる。なんと、クッキーに猫型の穴を作り、そこに飴を溶かして作り出すステンドグラスクッキーなるものも! 彼らはその後のBBQのために燻製肉をたくさん作ってくれたり、実は最初に体験させてもらったのだが、「白パン生地捏ね体験」が実現し、充実した時間を送らせて頂いた。


 雨は降り続いていたものの、私も驚いたのだが、皆全く気にせず、外に出ては森を楽しんでいた。これは、海外のLARPゲーマーも同じスタンスを取るのだが(といっても、日本より霧雨が多くまだマシだったりする)、日本人もそれができるとは思っていなかった。皆楽しさに貪欲に、この一瞬を逃さない一心で楽しんでいる。その気概が、雨をむしろ味方にしているのだ。この光景は興味深い。


 実際、雨の中の演技戦闘は格別格好良く、楽しい。ちなみに安全のため、よりゆっくりとした、自己責任の上での戦闘である。もちろん、主催者側も土の状態をよく確認してからの判断だったということはきちんと付け加えておきたい。


 撮影も雨の中だからこその空気エフェクトがたくさんあるようで、出来上がった写真は、まるで雑誌にそのまま掲載できそうなクオリティだった。とんでもない土砂降りというほどでもなかったのも、功を奏したのだろう。


 そして夕刻───


 真っ暗になる前に撮影をたくさんしていたら、とっぷりと夜の帳が下されていた。

 さあ、宴の時間だ。


 BBQ広場にゆくと、既に香ばしい良い香りが。石釜では少々焼き切れなかった白パンたちが焼かれているのだ。さらに、燻製肉が次々と。


 ぐうう、と腹の虫が鳴る。

 じゅるり、と唾液が口の中に広がる。


 ああもう、我慢なんかできない!!

 冒険者たちは我先にと丸太の椅子に座り、大宴会が幕を開けた!!


 じゅうじゅうと焼かれる燻製肉。豚肉の塊をハフハフとしながら頬張る。ジューシィな肉汁が口いっぱいに広がり、コクと燻製独特の香りが鼻腔を抜ける。うんまい。


 さらに、ここで出来上がった白パンを食す。こちらももっちりとした食感、なおかつ酵母のかぐわしい香りが口の中で爆発するのだ。ああ、ああ、もっと食べたい。そうやっていつのまにか食べてしまう旨さである。


 ここで釣って来た新鮮な虹鱒を焼き上げると、燻製肉たちの脂の旨味も乗ってとんでもなく美味しい。これこそは天国かと思えるほど美味しい。


 しかも、今回は冒険者たちが持ち寄って来た酒もある。小さな樽に入れられた超絶良いラム酒は、強いながらも、その一発目の香りで満たされうっとりする。こういうイベントには欠かせないミール・ミィのポーランド蜂蜜酒ミードも肉にとても合い、濃厚なその甘さが病みつきになる。他にもたくさん酒瓶が並んでいた。(この辺りで筆者は気持ちよ〜く酔ってきたのでよく覚えていない)


 適度に腹が満たされたところでお風呂に入る。温かい湯で疲れを癒され、気力がまだある者たちは解放された小屋へ、眠たい人たちはそれぞれの就寝小屋に引っ込み、楽しい夜はこうして更けていったのだった。


 翌朝。


 筆者は寝てしまった組なのだが、朝の5時に起きた。蜂蜜酒のおかげか疲れは取れ質の良い睡眠も出来たため不足ではなく、そのまま衣装に着替えて夜明けの散歩へ。


 朝の森はまだ暗かったものの、清らかな静寂と川の音に包まれ、神秘的だった。なんだかおとぎ話の世界に迷い込んだようだ。昨日から、とんと現実感がない。本当にここは異世界で、ゲートは開かれたのだなあ、としみじみ思う。


 解放小屋に行ってみると、みんな思い思いに酒を飲んで寝たのだろう、雑魚寝でフリーダム。良いねえ。私はニコニコしながら、皆の体を注意しながら跨いで、温かいお茶を淹れる。


 やがて朝日が森を照らし始め、チュンチュンと雀の声が響き始めた。雨も上がったようだ。同時に、冒険者たちもゆっくりと目を覚ましていく。そして───


「お腹空いたー!!!」


 あれだけ食べたというのに、なぜかぐうぐうお腹が鳴るではないか!というわけで、朝ごはんもBBQ。


 燻製肉を焼いたものと、具沢山の温かいスープを貰い、またもや幸せ夢気分の再来である。栄養のあるものを食べているせいか、皆朝からかなり元気そう。やはり楽しさと食のクオリティの高さは健康の秘訣なのかも知れぬ。


 満腹になると、皆は最後の時間まで楽しもうという精神で、演技戦闘訓練の続きをしたり、撮影班はどんどん撮影したりと、思い思いの時間を過ごす。


 そして、いつの間にか───異世界へのゲートは、閉じ始めていた。


 我々は名残惜しくも現実世界の服装に着替え、荷物をまとめていく。本当に楽しかっただけに、「もっとここにいたい!」という人たちが後を絶たなかった。しかし、我々は現世に帰らねばならないのである。


「また、異世界のゲートを開きたいね」

「そうだねぇ。今度はもう少し、人を増やして来たいものだね」


 星屑さんと顔を合わせて、くすりと笑う。


 また異世界の扉が開く、そのときまで───ファンタジー村よ、森よ、息災であらんことを。心から願いながら、我々は帰路へと出発したのだった。


 今回のイベントはテストイベントということで、内輪のみではあったものの、本当に素敵なイベントだった。こちらに詳細な写真と内容がまとめられているので、ぜひ見て貰いたい。


 【リアル体験】2016.10.29-30開催リアル中世ファンタジー村

  http://togetter.com/li/1043424

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