第32話 世界のLARP研究者たちとの出会い

 少し話が前後するが、LARP研究者たちとの出会いについて語りたい。


 その最初の出会いは、2014年1月に届いた一通のメールだった。名前をワーグナー・ルイス・シュミット(※1)さんという。彼はブラジル人で、日本で行われるLARPゲームに非常に興味を持ったとのことで、見学に行きたいという旨だった。


 (※1)ワーグナー・ルイス・シュミット……筑波大学にて教育論、教育心理学、社会心理学など、教育における修士号を持つ教授であり、LARPゲームについても研究をしている。


 というわけで、早速見学に来てもらうと、大いに感激したとのこと。なんでも、ブラジルでもLARPゲームを行っているが、日本に近い環境のようで、場所が狭く、うまくゲームができず困っていたそうだ。ところが、レイムーンLARPは公共施設の一室をパーテーションで区切るだけで、室内はおろか屋外まで、様々なシーンを可能としてしまう。この方式に衝撃を受けたらしい。


 今や世界にはLARPゲームがたくさん流行っており、コスプレ等のサブカルチャーが発達しているにもかかわらず、なぜか日本は今まで流行っていなかった。ゆえに、日本に住んでいた私たちは知る由もなかったのだが、LARPに対して研究する研究者たちは沢山いるという。


「その中では、研究所としてちゃんとあって、お仕事としてお給料もきちんと支払われるのですよ」


「えっ!? 本当ですか!?」


「ゆ、夢のようですね……!(ゴクリ)」


「も、もしかして、私たちって日本唯一のLARP研究者の卵になれるのかも……?」


「というか、今の現状だと、なるなら俺たちしかいなくね……?」


 などと、「えっなにその夢のような仕事」と我々スタッフは口をポカーンと開けるしかなかった。なんと羨ましい。もちろん、遊ぶだけではなくて、学術的なことも求められることは当然ではあるが……それにしても、羨ましい話だ。


 彼はノルディックLARPが好きだという。ノルディックLARPとは北欧方面のLARPゲームの形式のようで、中世ファンタジーに限らず、世界観は様々だが、ある一定のルールが存在する。それは、表現するということだ。


「怪我をしたら包帯を巻き治療をしますし、魔法を詠唱する、戦う時はダイレクトコンタクト、つまりチャンバラ方式での戦闘も行いますよね。実は、LARPといえども今は多彩でして、このようなリアル表現を敢えてしないゲームも存在するのですよ」


「えっ、別の表現を行うLARPゲームもあるんですか?」


「ええ、代表的なものとしては、『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』(※2)がありますね。こちらの戦闘は雰囲気のあるカード対決なのです」


 (※2)ヴァンパイア:ザ・マスカレード……通称V:tM。ホワイト・ウルフ・ゲーム・スタジオのワールド・オブ・ダークネスシリーズの第1作のロールプレイングゲームであり、吸血鬼を中心とした現代的ゴシックパンクの世界を描いている。


 レイムーンLARPは、パトリア・ソーリスをLARPルールブックの基準としている。このパトリア・ソーリスこそが、ノルディックLARPの要素をふんだんに盛り込んだものであるという。

 期せずして、我々はノルディックLARPゲームを遊んでいたのだ。


 このコンタクトにより、ワーグナーさんは私たちレイムーンLARPと深い繋がりを持つこととなる。在日の間はよく、レイムーンLARPにも見学しに来てくれた。その際はものすごい量のメモを書き、記録に残すべく奮闘していたことを覚えている。


 正直なところ、私たちは「日本で現役のLARPゲームをやってるぞ」なんて威張るつもりは毛頭ない。ただ、なんとなく3年ほど楽しんでいたら、日本で随一の老舗になってしまっただけだ。毎回、細かな調整をしながら、参加者もスタッフも皆で楽しめるゲームに尽力しただけに過ぎない。


 しかし、こんなにも嬉しそうにレイムーンLARPから様々感じて吸収してくれる方がいてくれて、なおかつそれがブラジルの方ともなれば、感慨もひとしおである。


 今は仕事の関係で母国に帰国してしまった彼だが、最後に見学に来られた際は、バッチリとビデオ録画をしていってくれた。これをブラジルの皆に見せるというから、なんとも嬉しい話じゃないか。


 また、ワーグナーさん繋がりで、もう一人のLARP研究者とコンタクトを取れることとなった。ビョーン=オーレ・カム(※3)さんである。


 (※3)ビョーン=オーレ・カム……ドイツのハイデルベルグ大学にて、TRPGとLARPを研究している。日本におけるLARPについての博士論文を書いている。現在は京都大学にて研究を続けている。


 この方は実はティンタジェルのカーミニアLARPワークショップにも訪れていたらしい。代表と著者はどうやらニアミスしていたようだが、まさかこんな形で再び巡り会うとは思いもよらなかった。


 彼は世界に向けて(!)アンケートをとる『The Larp Census』についての協力をお願いしたいとのことで、日本にもアンケートをとるため、英語の和訳をして欲しいとのことだった。著者も僅かながら英語は読めるため、快く引き受けた。


 この結果については、以下のサイトにて見ることができる。


 The Larp Census(日本語版) http://larpcensus.org/home/ja


 また、大変嬉しいことに、彼の論文上にてレイムーンLARPを紹介して頂けることとなった。


 ビョーン=オーレ・カム公式サイト 「日本のLARP(ライブRPG)」

 http://www.b-ok.de/ja/articles/larp-in-japan/


 その論文の本も頂いたのだが、残念ながらドイツ語であるため、詳細は読むことができなかったが、それでも、世界を代表して日本のLARPゲームが、そしてレイムーンLARPが紹介されたことは、実は日本のアナログゲーム史上で大変な快挙ではないかと思う。


「だいじょうぶ、日本のLARPも世界に胸を張って伝えられる」


 それをしっかりと明示して頂けた気がするのだ。

 今後も、彼らLARP研究者の方々との交流を深め、さらなる学びをお互いに得られればと思うのである。

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