第33話 グループSNE『ダイス・オブ・ザ・デッド』作者、大井雄紀氏&『SW2.0リプレイfrom USAシリーズ』ベーテ氏が来た!
先々月あたり、こんな話が友人の有理さんから来た。(有理こと、ベーテ・有理・黒崎さんについては第1話参照の事)
「あのさ、ゆーさん。野外LARP検証会のこと、大井さんに話してたんだ。そしたら、『ちょっと行ってみようか』ってことになったんで、プライベートで6月のゲームに遊びに行ってもいいかな?」
「ファッ!?」
有理さんはまだ分かるとして、なんとグループSNEの新作を今手がけるデザイナー、大井雄紀先生(※1)がレイムーンLARPに遊びに来る……!?
(※1)大井雄紀……グループSNEのクリエイター。『デモンパラサイト』『パラサイトブラッド』を手掛け、2016年には新作『ゾンビサバイバルRPG ダイス・オブ・ザ・デッド』を出版。今最も話題のデザイナーである。
「ちょ、こ、こここれはスゴク嬉しいし嬉しいしとっても嬉しいのでは」
「ゆーさん落ち着け、日本語が崩壊している」
「いやしかし、これは本当に嬉しいなあ。グループSNEの人が来てくれるとは」
グループSNEはただTRPGゲームを出すだけの会社ではない。アナログゲームに関してはどんなものでも、いち早くアンテナを駆使して楽しいゲームに着目し、カードゲームやボードゲームも手掛けるクリエイター集団なのである。(これに関しては、他のTRPGゲームを出版する会社も似たようなことが言えるかもしれないけれども)
そう。
そんな、グループSNEなのである。
元々は、著者も代表も、グループSNEの初代ソード・ワールドRPG(※2)に非常にお世話になった。今もなっている。特に著者はGMするに辺り、ほとんど初代ソード・ワールドRPGをメインで今もやり続けているほどだ。代表はルールブックをほぼ暗記しているほどの猛者である。
(※2)ソード・ワールドRPG……架空世界フォーセリアを舞台とした、剣と魔法と冒険のTRPGルールシステム。90年代に国産TRPGシステムとして大ブレイクし、メディアミックスも積極的に行われ、一時はソード・ワールドRPGばかりになってしまった時期もあった程の人気システム。未だに根強いファンがいる『ロードス島戦記』もその世界の中の物語なのだ。現在は、新しく生まれ変わった「ソード・ワールドRPG 2.0」がメインとなっている。
そんなわけなので、お二人が来るとあっては気合が入ろうというもの。早速、我々はシナリオの構築をすることにした。しかしLARPゲームはテストプレイは無く、いつも一発本番。大体楽しく終わってはいるものの、それでも30回を超える回数の中では改善点が必要なシナリオも存在した。
「出来れば、完成度の高いゲームをしたいよね」
「じゃあ、第10回のシナリオをリメイクしない?」
第10回のシナリオ。
それは、プラータ王国の姫君であるフェレス・レオンハートが、冒険者たちと共に試練の塔に挑戦し、見事最上階にある宝をゲットするというお話だ。この塔のギミックは非常にLARPゲームと相性が良く、プレイ後も評価が高かった。
こちらに当時の様子がリポートされているので、是非読んで頂きたい。
第10回レイムーンLARP「猫よ、霧隠の塔を制覇せよ」リポート
http://togetter.com/li/627876
しかも、今回のプレイヤーたちは丁度、まだ入って間もない人たちが多く、このシナリオを経験してない人間がほとんどだった。これなら使える!
「でも、今回はお姫様、出られないね。シナリオの流れ的に……」
第17・18回によって妖魔からフェレス王女を奪還したものの、罰として1年以上城で軟禁生活を続けている。さすがに同じ内容で出すのはどうかと思われた。
「じゃあ、今回は依頼人を冒険家をしている貴族に変えようよ。インディ=ショーンズで!」
「どっかで聞いた名前だな……?」
「気にしない気にしない。あと、試練の中身も変えよう。今回、NPC数が潤沢だし、会場も前と違うから」
「あれ? なんだ、楽できるかと思ったら、ほとんど作り変えじゃないか」
「いいじゃん、私達らしいよ!」
というわけで、様々なギミックが大きく変更された。詳しい内容については割愛するが、間違いなく、LARPゲーム「ならでは」のものが作られたことは言うまでもない。
当日、心配された雨もそれほどではなく、かくして有理さんと大井先生は現れた。メンバーには先に来ることを伝えていたものの、新規参加者・見学者にはサプライズだったので、とても驚いたことだろう。皆で温かい拍手をし、早速準備に入る。
「この日のために、俺はこれを海外通販で買っていたんだ」
と、有理さんはすごく大きくてかっちょいい、赤い鴉が描かれた丸いLARP盾を持って来てくれた。これにちなんで、彼のキャラクターの名前はバルトゥール・
(※3)……本来、ルールブックには「ドワーフは背が低いことが好ましい」と書かれているが、レイムーンLARPでは通常とは違う、異常な身体的特徴があるキャラクターも許可している。エルフをしたいのに似つかわしくない(「ドワーフ?」「小人族?」と揶揄されがちな)体型の著者にも優しいハウスルールである。やさしい。
大井先生は
この二人を迎えてのゲーム、白熱しないわけがない。
いざ満を持してゲームをスタートさせてみると、早速二人は冒険者の宿で酒を酌み交わしているくつろぎっぷり。LARPゲームが初めてとは思えない…!!
そんな中、冒険家であり放蕩貴族のインディが依頼に訪れ、さっそく塔へと向かう冒険者たち。特に今回はメンバーのンババ、有理さんのキャラであるバルトゥール、今回新規参加された方のインテリ(?)オークのグルルと、三人まとめて、まさかの蛮族トリオ。彼らのやり取りが本当に面白い!!
「お前、戦士。戦う、強い。仲間、一緒」
「おお、ンババ殿も誇り高き戦士であったか。共に戦いましょうぞ!!」
「グルルも、強い! グルルも、戦う!!」
終始こんな調子である。
三人のうち二人は片言だし、しかもバルトゥールとグルルは中の人が流暢に話せるほどの英語の達人なため、下位古代語が英語であるレイムーンLARPでは大きな頭脳戦力にもなった。蛮族なのに…!!(※4)
(※4)……本来、下位古代語は頭脳明晰なインテリ系キャラが担当するが、そもそもレイムーンLARP世界では古代王国が朽ちて数百年しか経過していない時系列の世界なので、彼らは蛮族ではあるものの、「昔ながらの言語が使われている部族」という扱いになった。
ちなみに、そこまで流暢ではない著者が拙い中学英語で、なんとか下位古代語パネルや古文書を作った結果、英語が得意な人には難解になってしまったらしく、大いに反省しています。ごめんなさい。(土下座)
レイムーンLARPの十八番である暗闇の森の探索では、いつものように暗闇にしてから、夜の森の音をiPadから流す。
フクロウの鳴き声、虫の音、意外と騒がしい夜の森の音───
これは、有理さんが「おお……」と感嘆していたのが印象深い。
そう、これを感じ取ってほしかったのだ。五感の一つ、聴覚による感覚。
きっと彼の頭の中では、この暗闇に、鬱蒼とした森の木々や、飛び立つフクロウが投影されているに違いないだろう。
儀式を行い、何もなかった広場に突然、大きな塔がそびえ立つ。それが今回の冒険の舞台、「水月の塔」であった。怪しい人影がチラリと見えつつも、慎重に入っていく冒険者たち。
予想通り、宝を手に入れる資格を得るため、様々な試練が襲い掛かる。
1階は智の試練、知恵や知識を試される。ボウルの水鏡に突然エルフの美女が出てきて(写真を加工して作ったものをボウルの中に入れて表現した)、エルフ語の歌声が響く中、その場所を見事当てて見せたり、たくさんの石板がある中で法則を見出し、謎を解くという具合だ。
2階は力の試練。ゴーレムたちが、様々なシチュエーションで戦いを挑んでくる。例えば二人の冒険者に対して二人のゴーレムで挑む、といった感じだ。しかしここで、プロットにはないアドリブが起こった。
「んー、OKOK。じゃあ、次のゴーレムは俺ね」(剣を用意しながら)
「星屑代表!? ちょ、ちょっと待って───君入って来るの!?」
「しかもタッグ組んでるの、うるめさんじゃねえかよ!」
彼ら二人を知っているメンバー、騒然。彼らはレイムーンLARPでも1、2を争うレベルのLARP戦闘の強者だ。いつもは手加減してくれてるのだが───
「うむ、ンババ殿。参ろうか!!」
「おう!! ンババ、戦う!! 名誉ある戦い!!」
と、バルトゥールとンババの戦い大好きコンビが来ちゃったから、さあ大変。
ちなみにンババは別の戦いで最初に部族の名誉あるハカっぽい踊り(※5)も披露しているほどの盛り上がりっぷりだ。
(※5)ハカ……本来はマオリ族の戦士が戦いの前に、手を叩き足を踏み鳴らし自らの力を誇示し、相手を威嚇する舞踊。ラグビーの試合の前などで披露されることも多く、著者もシビれる、男らしくて大好きな踊りである。
そんなわけで、試練の一つ程度の扱いのはずなのだが、ここで20分にも渡る長期戦が繰り広げられた。途中、バーサーカースキルにより装甲点が上乗せされるウォークライが発動する!
「ウオォォォォォォォォォォ!!!」
「ウガアァァァァァァァァァ!!!!」
「ちょ、バル、ンババ? 危なくなったら戻ってき……」
「ウオォォォォォォォォォォ!!!」
「ウガアァァァァァァァァァ!!!!」
「あっ───もしかして、あいつら、バーサーカースキル使ってるから逃亡できないんじゃ?」
「ていうか、キャラクターの性格的に逃亡する気も無いよね……」
「最悪じゃねえか! 誰だ、あいつら組ませたの!!!?」
彼らがあまりにもノリノリで参戦したので、冒険者たちもコレに気付いてなかった様子である。
というわけで、バルトゥールとンババは気持ちよ~く出血、気絶してしまったものの、なんとか依頼主インディの手助けにより先に進めることになった。
途中、回復時間の間に、鍛冶職人娘のジャンナトが鎧を直す傍ら、冒険者たちはしばしの休憩トークに花が咲く。この休憩は新規さんが多い今回のゲームでは特に大切だったようで、やはり日本人にはこのスタイルが良いのかもしれない。
ちなみにビッグは革鎧をしっかりと着込み歴戦の傭兵風なのだが、飄々としていて実に軽く、軽快なツッコミを得意としたキャラだった。そんな彼も、戦いの中で盾の重要性を理解したとのことで、戦いながら色々と試行錯誤していたようだ。
さて、階段を上った3階は突然暗くなり、皆、精神世界の中に迷い込んでしまう。冒険者たちはスポットライトの明かりの中で一人ずつ前に招かれる。目の前には項垂れる罪人───
「お前は処刑人だ。彼の者の声を聴き、彼らの声に耳を傾け、殺すか救うか、裁きを下せ」
実はこの「罪人の告白=義の試練」はキャラクター一人一人の設定に基づいたオーダーメイドの内容となっており、例えば鍛冶職人ジャンナトには血を吸う魔剣を作り出してしまった狂った鍛冶屋を用意したり、戦士バルトゥールには、英雄でありながらも平和が訪れたとたんに戦犯として処刑される罪人を用意した。
さて、気になるゲスト二人の答えは?
英雄戦犯の罪人に、バルトゥールは処刑用の手渡された剣を捨てる。
「なぜ、そのような裁定をした?」
「まず一つ。ワシは、この者を切る資格はない。そしてもう一つ、ワシが人を切るのは剣ではない」
実に彼らしい言葉だったと思う。
ビッグには、戦争に駆り出されたが、無理やり虐殺を強要されていた少女を逃がしたという、女傭兵の罪人を当てた。正々堂々と「殺してくれ」と言う彼女に、ビッグは迷うことなく剣を振り下ろし、その首を切り落とした。
「なぜ、そのような裁定をした?」
「彼女の想いを汚したくは───ない」
これもまた、非常に痺れる言葉だった。
これらの義の試練は、実は殺す殺さないがクリアの基準ではない。その基準については───おそらく、この試練の形式は今後も何度か回すだろう。その際に、運が良ければ、これを読むあなたも体験できるかもしれない。是非、その身で体験してから、スタッフに裁定基準を聞いてほしい。
さて、そんなこんなで、義の試練、その後の忠の試練もクリアしつつ、ついでにディアマント帝国の刺客がちょこっと襲ってきたものの返り討ちにし、最上階の試練も無事合格。(この最後の試練は「インディ」ということにちなんで、迫りくる壁が来る罠を仕掛けたが、瞬殺でクリアされてしまった……)
無事秘宝を手に入れ、冒険者の店に帰り、全員で祝杯を挙げる。少し時間を延長してのゲームになったため疲労もあったかと思うが、皆生き生きとした楽しい笑顔だった。これだけ楽しんで頂けたら、運営冥利に尽きるというもの。
最後に近場のファミレスで打ち上げをして、皆で今日のゲームについて語り合う。「この一杯がたまんないわー!!」とビールを飲む者も現れ、さながら雰囲気は冒険者の酒場の延長線だった。
残念ながら筆者は疲れで頭がぼうっとしていたため、有理さんや大井さんの感想について聞きそびれてしまったのだが、二人の顔を見るに、きっと満足だったものに違いない。そう思う。
かくして、新幹線の終電が近いという事で、有理さんと大井さんは帰る事となった。帰り際に、有理さんと熱い握手を交わす。同時に、再会を固く約束する。
「今日は本当に楽しかったよ。ありがとう!! またね!!」
その手はとっても大きくて、温かくて、ザラザラしていて、まるでドワーフ戦士みたいな、素敵な手で───私のちっちゃな手には、溢れてくるようで。
「うん。また、遊ぼうぜ!!」
そんな彼に私はにっかりと笑い、大きな手には不釣り合いなくらい小さな手で、強く強く握り返したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます