第58話 池袋mistelでホラーLARP!! CLOSS式のLARPとは?

 それは、初夏の頃のこと。


 池袋に フリースペース併設型TRPG&ボードゲームショップ『mistel』が新しく出来たという情報をゲットした我々は、急ぎ連絡を取り、三池店長(※1)にお会いすることとなった。


(※1)三池店長…池袋の フリースペース併設型TRPG&ボードゲームショップ 『mistel』の店長にして、アナログゲーマー。物腰柔らかく丁寧な対応と、イケメンボイスに定評有。


 三池店長は非常に気さくに接して下さり、まだ開店スタートして間もないという事もあって、話題性の高いLARPゲームに注目して頂けていたそうだ。早速店内を確認し、広さからプレイ可能なゲームを考えていく。


 店内は少し縦長になっている。加えて、地下であるがゆえに電灯を消した場合の暗さも申し分ない。我々は考えた───複数ある中でも、使える上にベストなシナリオは、ひとつ。


「『月夜見館のスケルツォ』なら開催可能なんじゃないかな?」


 我がCLOSSから出している『簡易汎用ホラーLARPルールブック メメント・モリ』を使用した、さらにルールを簡易化した形でのホラーLARPゲーム。それぞれのPCたちが様々なドラマを生み出し、多彩な展開が楽しめる人気作品だ。


 ただ、『生贄たちの挑戦』では表現しきれなかったことを、こちらのゲームでは表現できる。例えば、


 ・部屋の移動

 ・別部屋での同時展開

 ・ゆっくりと時間を取り、よりロールプレイを楽しめる

 ・狂気プレイをしやすく、放置されにくい

 ・戦闘を楽しめる


 などが挙げられる。特に戦闘は『生贄たちの挑戦』の会場では(他社とのコラボイベントということもあり)禁止となっていたので、ここが解放されるのは大きい。


 かくして、我々は新たなホラーLARPゲームをイベントとして展開すべく、様々に内容を練り直し、初参加の人でも無理なく没入していけるようなものへと作り上げていった。今回参加者は全員PCとなり、NPCやGMはCLOSSのスタッフが担当する。


 ただ、一つだけ懸念事項があった。『生贄たちの挑戦』では、随分内装に力が入っていた会場なので、没入感が高かったということはある。今回は、できるだけそれっぽく物を移動させたものの、全体的にプレイスペースである雰囲気は拭えない。果たして、ゲームは成立するのだろうか?


 コラボイベントとは違う、『CLOSS単独・独自のLARPイベント』をどのように魅せていくのか。我々の手腕が、まさに問われていた───


 緊張の面持ちで各々スタッフは、当日を迎える。このゲームも8名の男女がとある館に雨の中、飛び込むシーンから始まる。そして、ゆっくりと時間を取りつつ、プレイヤーたちは自己紹介をしながら、自身のキャラクター演技を探っていくのだ。


 ここは初体験の人たちが多い事もあり、ぎこちなくなることが多い。しかし、初対面の人間と自己紹介する時など、どうしたってぎこちなくなるもの。似たシチュエーションに紛れ込ませることによって、最初から演技することが苦手な人でも、無理なく没入して入っていけるようにするという、CLOSSお得意のシナリオギミックの一つだ。


 さて、自己紹介が一通り終わった所で、メイドの女性は姿を消し、突然の暗転。窓は真っ暗、嵐の音も聞こえなくなり、不気味な雰囲気が立ち込めている。そして……


 ───ギイィ。


 唐突に、扉から現れたのは───!?


 ……ここからは、実際にプレイして確かめてほしい。


 シナリオの特性上内容を明らかにすることはできないが、結論から言うと、大成功だった!


 『生贄たちの挑戦』で時間的にも場所的にも不可能だった長時間プレイをすることにより、プレイヤーの演技が洗練し、より没入感が高まることとなった。それはさらなる満足感とファインプレーを産み出し、どんどんと素晴らしい物語を紡ぎ出していったのである! また、軽食タイムを設けたことも、プレイヤーの評価を高くすることに成功した。


「やっぱり、美味しいご飯を一緒に食べるって良い経験になるし、プレイする上での良き潤滑油になれるんだねえ」


「ふーむ、食事は大切なんだなあ」


 もちろん、予算に影響することもあるけれど、考慮に入れたほうがいいのかもしれない。以後、同じような長時間のフルゲームには、休憩も兼ねて軽食タイムも視野に入れることにしている。


 内装がそれほど特化していないことなど、不安もあったが、こちらも結果的にはほとんど関係がなかったように思える。もちろん、没入感を高める要素はたくさんあるに越したことは無いけれども、だからといって体験性が劣るということでも無いらしい。事実、このプレイで格別な物語を紡ぎ出したプレイヤーたちが、もっともっとゲーム後の感想を話したいという動きを起こしていたことからしても、この事実がうかがえる。


 むしろ、どれだけコミュニケーションをたくさん行ったのか、どれだけ演技を楽しんだ参加者がたくさんいたのか、が総合的な全員の体験性を大きく左右するのかもしれない。そのお手伝いをするのが、我々スタッフ、そしてNPCの仕事でもある。


 NPCは敵として出ることもあれば、協力者として出ることもある。このNPCの演技、訴える力が如何程かで、その後のプレイヤーたちの没入っぷりが大きく変わると実感したのだ。特にこの時は演技力の高いスタッフが行ってくれたため、プレイヤー全員のハートを掴むことができたといえよう。


 かくして物語は大団円を迎え、事故もなく───


「今後も是非、よろしくお願いします!」


 mistelの三池店長が、白い歯を見せ微笑んでくれる。それを笑顔で返し、我々は約束した。


「ええ、是非。今度は、ここで『生贄たちの挑戦』も行いたいです!」


 池袋の地下一室で、我々はまた、大きな一歩を踏み出す。CLOSS式のホラーLARPの確立。それはまさに、またひとつ我々の大きな自信へと繋がっていったのである。

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