第22話 夏の現代ホラー! インセイン×LARP
我々、著者と星屑は、項垂れていた。
2015年の夏。暑い夏がやってきていたのだ。
「あっっっっづうううう……」
「しぬ…しぬ…しんでしまう」
クーラーをつけぬと死んでしまう36度とかふざけんな日本の夏!!
特に著者の家は団地の最上階なので、かんかん照りの暑さがもろに天井に来るのだ。さすがに危険すぎて断熱工事が設けられたものの、それでも暑いものは暑かった。
そして、暑さと湿気のダブルパンチは、著者の体力を著しく削ってくる。はっきり言って拷問に等しい。日本の夏。
だというのに、LARPゲームはとにかく暑い。どれだけ暑いかというと、冬場でも暑くなるくらいだ。夏場はクーラーが効いていても水分補給必須だし、なにより中世ファンタジー服は着るとかさばるのである。鎧まで着込む戦士たちは生死に関わると言っても過言では無い。だから、レイムーンLARPスタッフは乗り気ではなかった。ここで死ぬわけにはいかぬ。
「でもやらないとなあ……どうしたものか」
「あ。そーだ。この間、簡易汎用ホラーLARPルールブック作ったじゃん? 現代ホラーやらない?」
「ほう?」
「夏といえばホラー。ほら、納涼の夏と言いますし? それに、現代ホラーなら現代服で来れるから、スーツとかだったとしても超薄着!!」
「それだー!!」
というわけで、そんな理由から現代ホラーLARPが決定したのだった。どんなTRPGシステムが良いか検討したところ、冒険企画局のインセイン(※1)が良いだろうということになった。
(※1)インセイン…冒険企画局の出すマルチジャンル・ホラーRPGルールブック。汎用であるため、実は現代だけではなく、ゴシックホラーやコズミックホラーなど、舞台をいかようにも変えられるのが魅力。このゲームの肝にあたる「秘密」システムは、他者に自分から設定された秘密を話すことができないというものであり、LARPゲームとも相性が良い。
さて、そうなるとシナリオは?
「できれば脱出ゲーム形式にしたいかな。一番簡単だと思う」
「とはいえ、リアル脱出ゲームみたいなものではなくて、ちゃんとTRPGっぽくシナリオもあり、NPCも絡む話にしたいね」
「もちろん、PCたちの発言がきちんとシナリオに影響する形で……」
「はいはいはーい先生!!」
「はい、シナリオ担当のゆーさん。何?」
「私、サイレントヒル(※2)みたいなシナリオしたい!!」
(※2)サイレントヒル……コナミから発売されているホラーゲーム。著者はこのゲームのファンであり、グロテスクで残酷な演出がありながら、登場人物のトラウマや罪に向き合い戦う、切なく悲しいシナリオを特徴として持つ。オカルト的な力が実在している世界でもある。
「なるほど、シナリオとしても良いかもしれない。ただ怖がらせるだけではなく、怪異になった者たちにも理由があり、悲しみがあるわけだ」
「それにちゃんと向き合っていかないと、クリアは難しい。そんなゲームがいいね」
色々と検討した結果、出来上がったシナリオ導入・概要がこちらである。
* * *
シナリオ名 : 月夜見館の
嵐の中で迷い込んだ洋館。
そこは、財を成す月夜見一族の住まう館だった。
ここで少しだけ嵐が過ぎるのを待つだけ…のつもりだったはずなのに。
突然巻き起こる異変。襲い掛かる死の恐怖。
この館に巣食う禍々しい真実とは一体?
館の中には何がある?
昏い暗闇、昏い部屋。
館の中には何がある?
きんきら飾りと、銀のスプーン。
館の中には何がある?
どろどろ渦巻く、きたない心。
館の中には何がある?
悲痛な叫びと、悲しい瞳。
館の中には何がある?
助けて欲しいと願う声。
さあ、ご来賓の皆々様。
今夜の舞台は、繁栄を築いた名だたる「月夜見の館」でございます。
泣くも喜劇、叫ぶも喜劇、それはかくもスケルツォのように。
滑稽な人間の踊る様を、どうぞご覧下さいませ。
「月夜見館の
* * *
※このシナリオに関しては今後何度か行うことになるため、詳細は敢えて記載しない。是非、出来る機会が発生した際には、ご自分で体験して頂きたい。
このように、とある館に迷い込んだ(という表向きの理由だが……裏の理由は、もちろん違う。それぞれのPCに予め決められた『秘密』により、彼らの行動原理が決まるのである)PCたちが異変に巻き込まれ、怪異と時に戦い、逃げ惑いながら真実を追い求め、生還・脱出を目指すシナリオとなった。
もちろん、インセイン特有の秘密を聞き出す、共有する、正気度の減少などもメメント・モリを使用しながら、トランプを1枚ずつ引くことで表現していく。正気度が著しく減少してしまうと、一定時間「泣き叫ぶ、笑い出す、暴力衝動に駆られる」などの狂気に冒されるのである。
さて、当日。衣装は普段より少なく、皆現代服で来れるため、スーツや普段着などでいつもと全然様子が違う。しかしその中でも、小説家のPCは某文豪のような和装の出で立ちだったり、占い師のPCはなんと平安の貴族衣装である「狩衣」で挑んでいたりと、実に様々だった。暑そうなので普段着でいいのよと言いはしたものの、そのLARPゲーマーのこだわりには感服である。
そして、このゲームにはスペシャルゲストが取材として訪れていた。冒険企画局のえぬえぬ(※3)さんと、ぐげぺん(※4)さんである!
(※3)えぬえぬ……冒険企画局のグラフィックデザイナーの女性。ぐいぐいリードできる
(※4)ぐげぺん……冒険企画局のペンギンとボーカロイドを追いかけるお姉様。…としか関連書籍に紹介されていない謎の女性。インセインの公式リプレイにて逢坂実を担当している。
まさかのインセイン公式リプレイキャラクター本人とあって、それだけで参加者たちは大盛り上がり! PC数の関係からえぬえぬさんに女探偵を担当して頂き、ぐげぺんさんは見学という形でゲームを見て頂くこととなった。
ゲーム開始時に、まずはライトを全て落とす。暗い闇の中、ぼうっと明かりで浮き上がるのは、メイド姿に扮した著者である。
「館の中には何がある? 昏い暗闇、昏い部屋。
館の中には何がある? きんきら飾りと、銀のスプーン──」
演劇調の導入部分を情感たっぷりに朗読し、最後に一礼。そして、幕は上がる。
これは、LARPゲームにまだ慣れない初心者に対して、「これから貴方はこの世界に入りますよ」という運営からの意思表示でもあるのだ。実際、この演出は全くの初心者にも行った所、非常に好評だった。
さあ、物語が始まる。シーンは、嵐の夜。PCたちが各々、月夜見館にずぶ濡れで居間に通される所からスタートだ。メイドたちが右往左往する中、タオルを渡され、思い思いに「秘密を伏せた表向きの」顔でPCたちは談笑している。すると月夜見館の当主である月夜見源次郎が訪れ、軽く挨拶した後に執事とともにと去っていく。
「それでは、皆様。皆様に今夜の宿泊するお部屋を準備して参りますので、今しばらくお待ちくださいませ」
と、メイド長の女性が、同じく同僚のPCの1人(この館に仕えている使用人という設定だ)にこの場を託し、部屋を出ていく。そのまま談笑が続くと思われたが──
──ドンッ
突然、大きな音と共に、停電に。真っ暗となり、慌てて各々持参、またはテーブルに置いてある明かりで周りを確認する。窓はまるで黒いペンキが塗りたくられたように真っ黒で視界はゼロ。前方と後方にある扉は開かない。場が騒然となりかけた、その時だ。
──キィ……
先ほどのメイド長の女性が、出て行った扉からゆっくりと入ってくる。
「ああ、佐々木さん! いったい何が──」
使用人のPCが問いかけようとして、固まる。その異様な出で立ちは、いつもの彼女と違いすぎた。
確かにその顔は彼女でありながら、白目を剥いた血だらけの顔、おぼつかない足、絶えず発する呻き声。その手には、物騒な鉈が握られていて……
月夜見館の
気になる写真付きのリポートは是非、以下のURLから、ご自分の目で確認してもらいたい。
第28回インセインLARPイベント(テストプレイ)リポート(8/22開催)
http://togetter.com/li/864859
ちなみに、このゲームではラジオというアイテムが登場し、ことあるごとに館で何が起こったのか、過去の音声が流れ出す演出がある。その音声もこちらのURLにUPしているので、聞いてみると良いだろう。
使用人たちの会話(※音量注意)
https://drive.google.com/file/d/0B1-64vqqaiphLVB1V0hwNVhmUGc/view?usp=sharing
ちなみに戦闘もあるが、こちらのルールはホラー用なので、敵がめっぽう強い。そのまま死亡も十分にあり得るので、無理に戦わず逃げることを推奨している。
闇の中の探索をしながら、時に怪異に会い、狂気に冒されて逃げ惑いながらも、真実に近づいていく。このシナリオは非常に秀逸であり、切なく悲しい部分も織り交ぜているため、PCたちの感情移入が非常に高いゲームとなった。まさに、「それぞれが物語の主人公」になりえるポテンシャルを秘めている。
そんな紆余曲折の末、重い狂気に冒されるPCたちが出るも、なんとか全員館から生還。ゲームは大成功と相成った。冒険企画局から来られたゲストのお二人も非常に喜ばれ、TRPG業界の方々にLARPゲームの楽しさを体験して頂けたという、実質初の、そして大きな機会となった。この場を借りて、スタッフ一同、心から感謝したい。
中世ファンタジーゲームも良いが、現代ホラーはやはり、入り込み方が一味違う。運営側も用意が手軽だ! これはLARPゲームをする上でとても大きい。LARPゲームを広める目的としても、最初の入口として、良いものとなることを直感した。
これ以降、レイムーンLARPでは、簡易汎用ホラーLARPルールブック「メメント・モリ」の完全版作成へと本格的に注力されることとなる。
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