第39話 現代ホラー「祟り神」来たる!! メメント・モリLARP開催

「『リング』(※1)って怖くない?」


 初夏の第一声は、そんな言葉。

 私と星屑が、シナリオ集兼8月のホラーLARPにプレイする予定のホラーシナリオを考えていた時のことだった。


 (※1)リング…1998年1月公開されたジャパニーズホラーの金字塔。「貞子」がテレビから這いずって現れる、見ると死ぬ呪いのビデオなど、様々な有名な演出はここから始まった。派手な対決などはなく、じわりじわり、ひたひたと迫ってくる独特の恐怖は世界で絶賛され、ハリウッド映画化も成し遂げている。ちなみに著者はこっちも好きである。


「あー、でも俺、ホラーはあんまり得意じゃないからまだ見てな───」

「よし見よう今見よう!! 勉強だと思って今すぐ見ようぞ、友よ!!」


 というわけで、リング視聴経験者の私に引きずられるようにして、星屑を巻き込み視聴したところ……


「……おほお。いいね。これ、LARPでやってみたいねえ。怖くていいじゃない?」

「うんうん。前回は館という限定空間からの脱出劇だったけど。今回は、様々に場面を転換できるゲームにしようよ!」

「でもって、それぞれのキャラクター達に背景を設ける……いいね」


 場面転換はまさに、いつもの中世ファンタジーと同じだ。屋外も屋内もくるくると変えつつ、様々な調査をしていくシティ・アドベンチャーに近い。かくして、探索型のジャパニーズホラーLARPシナリオ「祟り神のわらべ唄」が作成されることとなった。


 あらすじとしては、こうだ。


 奥多摩のとある地域。夏休みの晩、車(大きめのバン)に8名が雨の中、立沼キャンプ場からの帰りに走っていた。


 ところが、突如車の目の前に白い服の女が現れ、運転を誤って近くの社に激突。社は大破し、後ろからあの白い服の女が現れて……無我夢中で逃げていくPCたち。そしてここから、忌まわしくも恐ろしい「しとど様の祟り」が幕を開けることになる───


 祟りという日本独特の恐怖。さらに動機を伴わない、あまりに悲惨な死に方により無念から狂ってしまった『どうしようもない怨霊』との対決が今回のテーマとなる。もちろん、祟り神である「しとど様」はほぼ無敵状態の怨霊であり、とんでもなく厄介な存在だ。そのまま戦いを挑もうとすれば、四肢が消し飛ばされるほどの強さなのだから。


 今回はメンバー5名に加え、アークライトの松尾壮紘(※2)氏がPCに、ビョーン(ビョルン)=オーレ・カム氏(彼については第32話を参考のこと)がNPCとなって頂くこととなった。


 (※2)松尾壮紘……アナログゲーム「ゲームマーケット」や「JGC」を主宰するアークライト所属。前所属はニコニコ動画のドワンゴであったとのことで、こちらの経緯のblogも書かれている。


 さらにもう一人のゲストとして、やみえん氏(※3)に最恐NPCである、しとど様の出演をお願いした。


 (※3)やみえん……ニコニコ動画でクリエイティブだったり司会をやったりと、様々な活動を行っている放送主。イケメンであると同時に演劇者でもあり、今回のしとど様はとんでもなく怖かった。ヤバかった。


 相変わらずの豪華ゲスト陣であり、感謝の念に堪えない。


 さて今回は、女子大生、幼馴染の考古学者、女子大生の兄である若き不良刑事、そんな彼に「おやっさん」と親しまれる監察医、怪しいルポライター二人、もっと怪しげな占い師、そして軍人の計8名でゲームはスタートすることとなった。


 一見バラバラな風だが、全員「郷土研究会」というWebサークルの仲間だ。特に仲が良いこの8名が、今回の惨劇に巻き込まれることとなる。


 8月21日。

 ゲーム内の日付もまた、8月21日であった───


 さて、このシナリオについては、再演可能性の高いゲームであるゆえに、詳細は割愛しようと思う。写真などを見たい方は、こちらを是非読んで頂きたい。


 【ホラーLARP】8/21メメント・モリ「祟り神のわらべ唄」リポート

  http://togetter.com/li/1015502


 しかし今回も、それぞれのPCたちの秘密は一筋縄ではいかないものばかりだ。真実を紐解けば紐解くほど、SAN値をごっそり削っていくような、ヒタヒタとした恐怖を味わうことになる。基本的には協力型だが、PLの動き次第でいくらでも対立しやすい構図となっており、プレイセンスが問われるだろう。


 このゲーム「メメント・モリ」で用いられる我壊値はSAN値に相当するものであり、これが削れていく度に発狂する率が上がっていく。実際、ゲームを行ったところ、参加者の大半が発狂して、5分ほどどうしようもなくなるという、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開された(中の人たちは抱腹絶倒していたが)。


 しかし、1年前のゲームに比べればブラッシュアップしたことが活きたようで、多少まだ重いシステムにしても、前回ほど辛くはなくなった。GMはトランプを渡すだけで良く、PLたちはそれを引くだけで自分が今、発狂するに至るかが分かるのだ。より画期的なシステムに進化したと言えよう!


 ※こちらのシナリオは、「メメント・モリ シナリオ集1 祟り神」に掲載している。印刷すれば済む小道具ならばすべてダウンロードして揃えられるので、是非、チャレンジしてもらいたい。


 やみえんさんのしとど様、その見事な恐ろしい「怪演」により、皆恐怖に震え上がりながら、信頼を持った仲間同士で話を進めつつ、それぞれの設定に基づいて動く様は圧巻だった。


 TRPGもそうだが、LARPもPLの動きによって物語が紡がれていき、ドラマが生まれていくのである。特に兄と妹となったPCたちの演技ロールは特段素晴らしく、GMとして見ていて、ひとつの演劇を見せて貰っているようだった。


 重症者は出たけれども、なんとか無事、全員生還! 朝日を見ながら、ほっと安堵したPCたちの顔は、どれも穏やかだった。きっと、それぞれのキャラクターの胸には、それぞれの気持ちが収められたことだろう。彼らの満足した顔を見れば、今回のゲームがどれほど充実していたかは分かるというものだ。


 ゲーム終了後は同会場で軽く軽食を食べつつ、今回のLARPのことに加え、今後に胸躍る嬉しいお話をすることが出来た。未だ詳細を明かすことはできないが、もっとLARPを身近に感じられるゲームを展開出来るかもしれない。


 さらに、今回ビョルンさんに一部始終を見て頂き、興味深い感想を頂いた。


「今の日本の公共施設でやるやり方として、とても合うやり方だと思いました。他のLARPの種類で比べてみると、ルールとGMが存在するFreeform LARPに近い印象を受けました」

「Freeform LARP……です?」

「Freeform LARPはあまりルールがなくGMもそんなにいませんが、その分物語とキャラクター関係にフォーカスを置くのです。さらにレイムーンのスタイルを考えると、シーンずつ進めていくやり方がBlack Box LARPというルールの無い政治的なゲームや、または演劇の影響も強く感じました」

「確かに、結構人と人ががっちりと絡み合いながら接していくゲームとして定評があるみたいですね」

「はい。それに、サウンドも素晴らしかったですね。音響としてコンパクトなスピーカーを使っていましたが、良いアイディアです。車の事故の音、怨霊の笑い声、後半からずっと聞くことになる雨の音が、臨場感をより増してくれました。皆さんのロールプレイも素晴らしかった!! 物語性に重きを置いているので、余計にプレイヤーが輝きますね」


 そしてここからは、NPC参加したことの感想を話してくれた。


「NPCの世界共通点が分かりました……何だと思います?」

「分かりませんね、何でしょう?」

「『待つ』ことです」


 そう言って、彼は笑う。


「でも、レイムーンのゲームは待っていてもつまらなくない。NPCが自由にゲームの内容を見ることが出来ますから。ドイツの野外LARPゲームでは、寒い夜中90分も森で待っていて、プレイヤーが僕らのNPCグループを見つけることが出来ず、結局何もできなかった、という経験がいくつかありました」

「ひえー。NPCが自由行動だと、そういうことも起きるのか……!!」


 私たちのゲームは基本的に参加する全員が楽しんでほしいという方針なので、NPCも例外なく楽しめるよう組んでいるのが幸いしたのかもしれない。それ以上に、まず狭い部屋でしか出来なかったことも一因としてあるのは否めないが……


「とても興味深く拝見させて頂きました。これからの活動にも、お力添えできればと思います。今日はありがとうございました」

「私たちこそ、ビョルンさんに来て頂いて本当に嬉しかったです! ありがとうございました!!」


 深く深く我々は感謝し、京都に戻る彼に対して一礼した。

 このメメント・モリLARPは年に一回のゲームだが、このゲームはもしかしたら、日本のLARPゲームの歴史において、またとない拡散の機会を与える気がする。そんな予感がするのだ! そんな良き日に、彼らビョルンさんや松尾さんと巡り合えたのも、何かのご縁なのだろう。


 さあ、メメント・モリLARPを広めるぞー!!

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