第38話 コミケC90参加! そして怒涛のビックウェーブ到来!?

 新刊「祟リ神」はコピー本でと決めていたものの、完成したのはなんと前日。前々日は夜中の2時まで、近所のセブンイレブンにコピー印刷しにいく有様だった。

 今までで一番製本……忙しい時ほど、暇な時間を見つけて作業するべきだなと痛感した今回の新刊であった……。


 それはともかくとして、なんとか刷り上がった新刊。1ルーム2名からできる「ちいさなへや」と同時に、実はその一週間後8月21日に開催される毎年一回のレイムーンLARPのホラーLARPイベントに使用されるシナリオ「祟り神のわらべ唄」が収録されることとなった。


 こちらは「ちいさなへや」と一線を画し、場面転換を多用した本格的な一本となっている。「ちいさなへや」で慣れてきたら、大人数でやってみたくなってくるであろう方に向けたシナリオだ。(ちなみに8月21日のゲームに参加するメンバーも買えるが、当日までそのシナリオだけは見ないようにと言い含めている)


 さて、いよいよ当日。

 今回は初心に戻り、星屑も著者も中世ファンタジー衣装で参戦だ。初めての夏コミに体力的な不安も大きかったが、巷で噂になっていたヴ◯ームを飲んで自らの脂肪を体力に変換して乗り切ることにした(し、結果的にこれは大正解だった)。


 いざスペースに着いて「あっ」と思ったのは、今回はTRPG島と随分離れた場所に位置してしまっていたことだった。1回目の参加以降は電源不要(その他)ジャンルではあったのだが、ここまで離れてしまうとは予想外。果たしてTRPG島から人が流れてくれるだろうかと、不安にならざるを得ない。


 しかし蓋を開けてみれば、やはり同じゲーマー、TRPGだろうとボドゲだろうと、気になる方は立ち止まって見てくれる。今回は新刊も完売とは行かずとも順調に半分以上売れ、メメント・モリや、LARPのススメも好調な売れ行き。


 考えてみれば、著者はこのLARPに出会う前はとんとコミケに縁がなく、行ったとしても一般参加であったし、サークル参加してもTRPGリプレイ本一回しか出してない(※1)し、ここまで売れたりはしていない。


 (※1)……実はこの時、コミケ初参加の有理さんに売り子をお願いし、一緒にスペースに座ってもらったのも良い思い出だ。スペースに1.5人分の大きさの人間が座るというのは、なかなか圧巻であったと思う。いつぞやはありがとう、有理さん。


 それを考えれば、このLARP本は初の快挙であり、売れて手応えを感じる初の喜びを得られたわけだ。つくづく、LARPに関わることで色々と我が人生に初体験が増えるなあ、と著者はしみじみ思うのである。


 また、この参加で「LARPというものを初めて知りました!」という方をたくさん引き寄せることができたのも、大きな収穫だったといえよう。我々のような超絶マイナージャンルにとっては、まず「知ってもらうこと」をコミケ参加のポイントにしているし、とても大切なことだ。


 そんなわけで、ホクホク顔で撤収作業に入った我々だったが……実は、この後に大きなイベントを二つほど控えていた。


 まず、ビョーン(ビョルン)=オーレ・カム氏(彼については第32話を参考のこと)との邂逅である。たまたま、C90に彼が来るということで、時間を取り、色々話す時間を設けたのだ。京都から来る彼だからこそ、この出会いを逃す手は無い!!


 とにかく時間が無かったため、待ち時間や電車の中でも、様々な話をして盛り上がり、新宿に到着してからとあるカフェに立ち寄って、さらに濃い話をさせて頂けた(実は8月21日に控えているホラーLARPのNPCも参加したいとの希望を受け、こちらの打ち合わせも兼ねている)。


 主な話となったのは、やはり「私たちが今どうやってやっているのか」、「日本で日本人がやらないと思っていたのに、なぜやれるようになったのか」といったこともあったが、特筆すべきは「ドイツと日本では違うと思っていたことが、実はそうではなかった」という点である。


 ここで、私は謝罪しなければならない。

 私はまだまだ、視野が狭すぎた。


 国内で海外式のLARPゲームといえばカーミニアLARPくらいしかやっておらず、後はネットだけの情報だったためとはいえ、勘違いしていた箇所が幾つか存在していたことが、この度ビョルンさんと会って話したことで判明したのだ。


 カーミニアLARPは、言ってしまえばドイツの中世ファンタジーLARPゲームの最もたる所を抜き出して作られている。例えば、


 ・大勢(30名からそれ以上の人数)で遊ぶ

 ・タイムインからタイムアウトまでのゲーム内時間がとても長い(映画撮影の言葉で言うならば、4時間以上ずっとカット無し&「長回し」でカメラを回しているような感覚)

 ・見立てが少ない(=凝ったアイテムをこれでもかと出したり、大道具も凝っている、建物も凝っている)


 こんな感じだ。これらをてっきり、「海外のLARPゲームはみんなこんな感じに近い」と一括りにして思い込んでしまっていた。


 しかし、これはあくまで「ドイツの中世ファンタジーLARPゲーム」の一面でしか無いというのだ。例えば戦闘は全く無いが、お互いのしがらみ、環境、状況設定で大きく変わり、様々な交渉によって進めていく「政治的なLARP」に関しては、一変する。


 「政治的なLARP」(LARPゲームと言えるかはちょっと微妙なライン)では、人数は10名前後、シーンごとに区切り、見立て(机や椅子を別の何かに見立てる)も多く発生するらしい。なんとこれは、シナリオの構築はまた少し違うとしても、レイムーンLARPの手法と酷似しているではないか!!


 つまり、レイムーンLARPのやり方は日本人に合うやり方ではあるが、日本独自と言い切れるものではなかったと言える。もはやこれは、に過ぎなかったのだ!! 嗚呼、なんたるグローバルな視点だろう。やはり、私たちに日本は狭すぎる。もっともっと大きな視点が欲しい。ドイツに、アメリカに、世界のLARPを見ていきたい!!


 という話をしたものの、でもやっぱり、日本人独自の色はあるわけで、その最もたるは「目立つことを恐れ、周りに合わせようとする」という性質だろう。こちらについてはビョルンさんもドイツも一緒だとはお話していなかったと思う。


 多くの日本人は目立つことが苦手だ。目立つと、大体が叩かれる。出る杭は打たれる、という諺がここまで似合う民族はそうはいないと思う。LARPゲームだって、インターネット上から浮き出て見えるわけで、今は小さくて目立っていないものの、目立って来れば叩かれる時代は来るだろう。


 でも、ゲームの中に入るにあたり、その性質を我々はうまく利用している。新規参入のプレイヤーがいても、その人数はゲームの中では必ず少数。大多数の別のプレイヤーたちが着替えてしまい、スタッフもばっちり着替えて演技が始まれば、不自然に感じて、ソワソワしてしまう。少しネガティブな感じではあるが、結果的に新規参入でもゲームに馴染みやすくなるのだ。


 さらに、ここにNPCスタッフの後押しで、その新規キャラクターにNPCスタッフがNPCとしてしっかり話しかければ、応答せざるを得ない。それがまた、「この世界でなりきるのが恥ずかしい」という気持ちを払拭させてくれる手助けとなる。


 そして、叩く叩かれるの話の際に、ビョルンさんはこんなことを呟いた。


「実は、こんなに流行っているドイツでも、5~6年前は他のメディアから批判を受けていた───いわば、叩かれていたんですよ。『あいつら馬鹿じゃないの?』って」

「うわっ、ドイツでもやっぱりそんなことが……」

「でも、今はそうではないのですよね? 何か変化があったのです?」

「はい。今は誰も馬鹿にせず、メディアが真面目に取り上げて、LARPの有用性について取り上げてくれています。そのきっかけは───若者たち、つまり『子ども』でした」


 我々の飲んでいた冷たいグラス。

 その中の氷が、カキン、と音を鳴らした。

 それは、確かに静かなカフェであったが……それ以上に音が鎮まるような、静かな衝撃。

 ビョルンさんは言葉を続ける。


「……近年、ドイツではゲームやコンピューターで一日中家に籠る子どもたちが急増していました。それを『心身に良くない』と悩む親は多かったのです」

「ああ、だからか! 確かドイツでは、子どもたちを一週間くらいLARPキャンプで遊ばせることができましたよね!」

「そうです、そのLARPキャンプで遊ぶことによって、外に出て遊んでいくことがしっかりと出来るようになる。これを喜ぶ親もまた多く、それによって印象が大分変わってきたのです」


 TIPS 8にも掲載しているが、北欧では子どもたちにLARPゲームをさせることも盛んだ。しかし、こんな驚くべきポイントがあったとは……!! LARPの悪印象を変えてきたのは、次世代を担う子どもたちへのアクションがあったからだったのだ!!


「実際、教育の場でLARPを使うことも北欧では盛んです。とある学校では、授業全てをLARPでやっている所もあるくらいで。しかも、その子どもたちはこの授業をした後に軽くテストをするそうですが、LARP授業を受けていない子どもたちよりも高い点数を出していると言います」

「うわー」

「日本でも、自分で考え、判断できない子どもが増えています。私たちも、そういった教育を施されてきたという実感はあります。LARPゲームは体を動かす上に、緊急時に対して情報をもとに瞬時に判断する力が求められますから、ゲームをしながら養っていけるのは素晴らしいことだと思います」


 実際余談だが、筆者は父の仕事の関係で普通の小学生や中学生より、かなり複数の学校を人生で経験してきた(小学校を3回、中学を1回、高校を1回転校している)。ゆえに、地方、都内によって教育の方針が違い、様々な先生がいることも経験している。


 あくまで私個人の感想に過ぎないが、比較的、「自分の思考で考え、行動せよ」「質問はガンガンしよう」と教育できる授業は少なく、唯々諾々と教科書を読ませるだけの授業があまりに多かったことを痛感する。けれど、日本の子どもたちはこんなにたくさんの教師の授業は体験できない。私は幸運だった方で、多くは学校を選ぶこともままならないはずだ。


 今後、子どもとLARPは大きなキーワードになり得るだろう。それを私たちは、ビョルンさんの言葉によって改めて気付かされたのである。


 さて、ビョルンさんとのお話はここまで。名残惜しくもお別れし、次に向かったのは芥邉 雨龍ことあべべん(※2)さんのコミケ打ち上げ会だ。


 (※2)芥邉 雨龍(あべべん)……冒険企画局のシナリオライターであり、ゲームデザイナーでもあり、創作ユニットサカツキ、『15(The FIFTEEN)』作者でもあり、奇卓部の部長でもあるという、多彩な方である。


 たまたま彼にお声がけ頂き、打ち上げ会へとお邪魔させて頂いたわけだが、結果的に大きく貴重な繋がりを得ることが出来た!


 さらにビョルンさんとの別件の話も合わせて、詳細は割愛するが、大きなビッグウェーブがLARPに迫っていることは間違いないと言って良いだろう。CLOSSがどのように皆さんのお力になることが出来るか、今からとても楽しみだ。


 そして、どんどん形になればいい。

 大きく輝く、光る船になればいい。

 それがこのビッグウェーブに乗れるなら、とんでもない波乗りだってやってのけることだろう。

 そのクレイジーな船出を皆に見せるために、乗せて踊り歌うために、頑張りたい。


 夏も佳境を過ぎ、お盆も終わる。

 季節は巡り、そして怒涛の秋が訪れるだろう───

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