第1章 LARPとの出会い

第1話 らーぷ? ってなんですか?

 それは、2012年の春頃だったろうか。

 たしか、目白の小さな飲み屋さんだったと思う。キャッスル・ティンタジェル(※1)のスタッフであるStephan氏(※2)と、他のメンバー数名で、イベントの帰りに酒盛りをしていた。


 ※1)キャッスル・ティンタジェル…西洋中世文化スクールを運営する目白のスクール。西欧中世甲冑ファイトや、ドイツ剣術に明るい。


 ※2)Stephan氏…キャッスル・ティンタジェルの元スタッフ。アメリカで主流のSCA(歴史研究グループ)にて日本人初の男爵位を持ち、西欧甲冑ファィトやドイツ剣術に明るい。また、イラストレーター多田敬一の一面も持ち、スチームパンク風の独特の画風を持つ。


 店内のほのかな灯りに、わいわいと楽しげな客の笑い声。ほろ酔い気分で様々な話をする中、不意にこんな話題がStephan氏の口から軽やかに飛び出たのだ。


「そういえば、うちで『』ってゲームをやるんだよ」

「らーぷ…ですか?」


 綴りは「LARPラープ」というらしい。頭の中がハテナでいっぱいになってしまった。「ライブアクションRPG」とも呼ばれるよ、と聞いて、ようやく単語があるものとくっつく。「ライブRPG」のことなのだろうか?


「うん、それに近い。けど、あれよりもっと大掛かりだよ。ちゃんと着替えて、剣で戦うし、魔法だって打つんだ!バードは楽器も使って歌ったりする」

「世界観は中世ファンタジー。カーミニアという世界観でやるよ。これはティンタジェルオリジナルの世界なんだ」


 ますます意味がわからない。けれど、なぜか私は心が躍った。

 ロード・オブ・ザ・リングの映画の虜になり、また、もともと自分自身が10年前からTRPGのソード・ワールド完全版を好んでいたので、そんな世界に入って遊べるような、そんな夢のようなゲームが存在しているなんて、考えもしなかったからだ!


 実は、そのもう少し前くらいに、10年来からの古い友人であるベーテ・有理・黒崎(※3)さんからの海外からの話で、エッセンにてLARP用武具が売っていることを聞いて、身に付けた写真も見ていたのだが、その時は「どうせ日本じゃできない遊びなんだろう」と、現実味はあまり無く、羨ましいなあくらいにしか感じていなかった。


 ※3)ベーテ・有理・黒崎…グループSNEでリプレイを執筆し、「SW2.0リプレイfrom USAシリーズ」を始めとして数々の人気作を世に出している作家。元々は某オンラインTRPGサークルで知り合い、筆者とは普通に最初から友達で、今も交流を続けている。


 それを、日本で?


 それを、ここでやれるの!?


 …もちろん、ワクワクだけじゃない。私は、現在恥ずかしいことだが、中学二年の体育の時に無理をしたおかげで、一生付き合う必要のある腰痛という爆弾を抱えている。そのため、縦横無尽に動けない。


 そもそも、体育は苦手。水泳だけは成績が良いけれど、陸の上はからっきしだ。その上、割とのんびりな状況判断ばかりしかできぬ身の上。(バスケとかは鬼門)

 こ、これはそもそもゲームができるラインを下回っていないか…?


 どんなものか勝手がわからないゲームゆえに、不安も高まるが…気がついた時には、キャッスル・ティンタジェルの第一回カーミニアLARPワークショップに参加予約をしていた。


 そう。


 全てはここから、スタートしたのだ。

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