第15話 コミケでLARPゲームを知ってもらう

 来る2013年12月某日。

 我々、星屑、ゆー、藤咲マダムの3名は、冬の国際展示場に訪れていた。


「風が──吹くな……」

「我々の戦陣を祝う風が……」


 ということを言ったか言わないかはさておいて、我々は颯爽と同人誌の在庫ダンボールを例のカートにがっつり積載し、サークルスペースに訪れた。その前に、ゆーと星屑はコスプレ更衣室に行き、それぞれ中世ファンタジーエルフの衣装に着替える。ちなみにゆーは着替えている最中、周囲の視線として、


「中世ファンタジーっぽいけどなんのゲームのキャラだろう?」

「何かのコスプレにしてはものすごく色が地味だなあ」

「ロード・オブ・ザ・リングのホビット?」


 というような、なんとも不思議な視線を頂いたことを追記しておく。


「さて、エルフに着替えたぞー。あ、星屑さんもエルフになったね!」

「……」(ガクガク震えている)

「どうしたの?」

「……男性更衣室は……ま──魔界だった……!!!」


 どうやら、女装男子が結構いたという何とも言えぬ空気に体をやられてしまった様子。思えば、星屑代表は男性更衣室は初体験であり、実はコスプレ童貞であった。

 ふっ──と生暖かい微笑と共に、2人で肩ポンしたのは言うまでもない。


 さて、スペースを手早く配置し、早速10時開場となる。コミケは昼までのこの2時間が勝負の分かれ目だ。といっても、営業のしようもないので立っているだけなのだが、私たちの衣装と装備、ゲームに実際に使用された小道具の数々は随分人の目を引いたようだ。


 まず最初に、頭に西洋甲冑のヘルムを被り、全身を金属ではない、プラスチックを銀で塗装したような全身甲冑を纏った長身の男性が、真っ先にやってきた。


「あの……こ、これ、何なのですか?」

「LARPゲームです。ライブアクションRPG──ぶっちゃけ、あなたのその格好で参加できますよ」

「本当ですか!? い、行きます!! 行きます!! 連絡先はどこですか!?」


 これは誇張ではなく、割とマジなやりとりである。

 実はこの彼こそが、後にレイムーンLARPのメンバーにもなる槍さん(※1)その人なのだった。


※1)槍…レイムーンLARPの荷物運搬の要となり、LARPゲームに特化した安全な武器と装備を作り上げ続け、LARPゲーム・コンバットオンリーの「ゆるチャンバラ」を設立する男性。後のサークル「黒槍」の代表となる。


 槍さんの一本釣りを経て、序盤からかなりの一般参加者たちが押し寄せ、LARPのススメがA5フルカラー28Pでしっかりとした作りでありながら500円という価格を聞いた彼らは、殺到するように押し寄せ奪い合い、さながらバトルロワイヤルであった(一部表現を誇張しています)。実際、売れ行きは100部と行かないまでもなかなか健闘していた。

 こちらはコミケが終わっても、後々長く売れ続け、通販や委託販売で累計200部を完売し増刷に至るまでの人気同人誌となる(こう書くと少ないかもしれないが、認知度がまるで無いゲームがテーマなのだから、大健闘だということにしておこう)。


 小道具展示に至っては、ギャラリーの反応は様々で、


「うお、こんな剣を使うんですか……ああっ、これ柔らかい!! 痛くない!!」

「へー、別に古着でも着られちゃうんですねえ。もっとお金かけると思ってた」

「うわー!! この小瓶欲しい!! あ、非売品なんですか…くうう欲しい…」

「ほんとにチャンバラで戦うの!? たのしそー!!」

「この魔法書で呪文詠唱するんだ。いいなあ、ロマンだなあ」


 概ね、楽しそうに受け入れられていたのが印象的だった。正直な所、ここまでゲーマーは冷たい目で見られるのではとドキドキしていたのだが、さすがはコミケ。サブカルチャー発信の地である! 多くの声援を受け、非常にモチベーションも上がり、最初から最後までこんなに充実したサークル参加は初めてだった。

 我々はかなりの手応えを掴んだのは言うまでも無い。コミケは、マイナージャンルにおいて、認知度拡散に大きく役立つイベントだったのだ! とはいえもちろん、ただ知らせるだけでは勿体無いので、新刊もできるだけ作っていくことになった。


 2013年12月某日の夕方、こうして我々の初めてのコミケ参加は終わりを告げた。宵闇の帳が落ちる中、年の瀬は近づいていたが──我々の胸は熱く熱く燃えていた。


 レイムーンLARPの未来が、まさに今、拓こうとしていた。

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