第5章 次なるステージへ

第25話 日本初の宿泊型野外リアル中世ファンタジーゲーム! 〜準備編

 野外LARPゲーム。

 それを私たちが初めて知ったのは、3年前になる。

 カーミニアLARPでの野外でのゲームは、当時の私たちに多大な影響を与えた。それは今までのアナログゲームの概念を軽く飛び越える、新感覚の楽しさだった。

 そして、3年後──

 コストマリー事務局さんの繋がりによる、LARPゲームに理解が厚い「フォレストパーティー峰山」のご協力と、レイムーンLARPとしての参加者の人数、LARPゲームへの世間の認知度により、我々はついに、それが出来る舞台を整えたのである。

 ちなみに、フォレストパーティー峰山はコストマリー事務局さんの別のイベント参加や、特別に下見させて頂いたことにより、ある程度の土地勘は掴んでいた。


 ──時間を8月に遡ろう。

 野外LARPゲームをやろう!! と息巻いたものの、我々は苦悩していた。ズバリ、シナリオが思いつかないのだ。

 私たちが目指していたのは群像劇ではなく、あくまで大勢がそれぞれ動きながらも、結果的に全員が事の経緯を把握できる物語。今まではまるで無機質な公共施設の一室に、それら舞台を投影するだけで良かった。しかし、今回はキャンプ場を半分貸し切ってのゲームだ。投影する必要の無い部分が出てきたということは、言い換えれば、舞台がということでもある。

 例えば、そこに小屋があったとしよう。小屋があれば、そこにはやはり小屋があると。そこにもし、大きな巨木があったとすれば、その巨木を演出上無視できなかったりするのだ。五感が与える妙であり、これは一長一短でもあった。

 それでも、私たちのゲームはシーン制の手法を使い、場面を変えることは出来る。


「それじゃあ、まずは演出展開できるシーンを確定しよう。ほら、キャンプ場には区画があるよね。キャンプサイトみたいな……これを1つ1つ番号で区切るんだ」

「なるほど。これで区切れば、大体のシーン表現は可能かな」

「うんうん。状況やシーンによって、複数使ってもいい。これで対応すれば、ゲームは可能なんじゃ無いかな?」


 シーン場所を1から6まで分け、その後に組み上がったのが、以下のシナリオである。


 エルフの森、さらに秘匿された小さな村、アマティスタ……そこには、このレイムーン地方の土地の豊かさを支えている黄金樹があった。周りにはそれを守る人間とエルフたち、そして自らの体を人身御供として捧げ、黄金樹を代々この世界に繋ぎ止める巫女がいた。ひょんなことで次代の巫女が踊る野うさぎ亭の冒険者たちと関わりを持ち、彼女を村に帰そうとしていた所、異変に気付く。黄金樹を支え眠り続ける巫女が死にかけており、このままではレイムーン地方が滅びてしまう──というストーリーだ。


 このストーリーはかなり入念に何度も何度も組まれ、途中状況が大きく変わった関係でゼロから作り直し、ということを経験しながらも、なんとか組み上げたものだった。大規模戦闘の後、謎解きもあり、家に忍び込むこともでき、情報収集も踏まえ、最終的に「夜の中で」ダンジョン探索を行い、黒幕を倒す。エルフの村から感謝の宴が披露され、コストマリー事務局からの協力により、美味しい中世ファンタジー風のエルフ料理と、京都蜂蜜専門店ミール・ミィの極上の蜂蜜酒が振舞われる、という流れだ。

 大規模戦闘は最初に済ませる形だった。なぜなら、時間がいつものゲームより足りないからだ──入山はどうしても11時から12時、そこから準備して13時スタートとなれば、時期的に暗くなる時刻は16時半以降。実に3時間少しで戦闘の醍醐味を味わうような流れにしなければならない。暗闇に閉ざされてしまう山中で危険な戦闘を行うわけにはいかなかったのである。

 しかし、我々がいつも経験している室内のゲームですら、昼からのゲーム本番で約4時間。野外ゲームに比べ、1時間近くの余裕がある。つまり、いつものゲームより1時間足りない。いつもより少ない時間で、やったことがない野外ゲームなのに、である。

 時間が圧倒的に足りずグタグダになってしまうことが何よりも怖い。私たちは事前に参加表明されたNPCプレイヤーとも入念に打ち合わせ、いつもより時間管理に気をつけていくことを打ち合わせし続けた。

 さらに協力者に恵まれ、レンタル武器防具に自身の私物を持ってきて頂けたり、車での送迎にご協力頂けたりと、様々な助力を受けることができた。


 みんな、このLARPゲームの成功を心から願っている──


 日本初の、カーミニアでさえ成し遂げていない、宿野外LARPゲーム。

 ただ、ひしひしと感じられる大きな期待。それは私たちに大きな勢いを生み、また、大きなプレッシャーを背に受けることとなった。

 果たして、成功できるのだろうか?

 準備は入念にした。打ち合わせもだ。何度も何度もプロット確認もした。

 

 そして……


 2015年11月13日。

 我々は前日入りして準備するため、車により、千葉県君津市へと向かう。前日入りは難なく終わり、小道具の配置と様々な衣装チェックを終わらせる。

 ここで、数日前から気になる予報があった。


「うわ……雨雲がかなり早く近づいてるよおお……」


 なんと──!!

 おお、ジーザス……ッ!!!


 数日前はずれていた雨予報が、ちょうど明日のイベントに差し掛かりそうになっていたのだった。この時期は11月、一番雨も降らず行楽日和になりやすいと半年前に予約したわけだが、運悪く異常気象に見舞われ、気温はかなり暖かいものの、荒れ狂う天気が重なる秋となってしまっていた。


「こ、こんな時に雨になったら……」


 日本の雨が、しかも暖かい荒れ模様の雨が降ったらどうなるかなど、読者の皆様は誰もがお気づきであろう。著者は実に小心者だ。この時点で半泣き状態だった。

 しかし、この状況だというのに、代表はドンと構えていた。


「まあ、この土壇場は仕方ないさ。ドンと構えよう。雨対策だけはやっておこう」

「う、うん」


 私たちは不安を拭えぬまま、床につく。

 ドキドキとした不安を抱えながら眠るのは、ひどく辛い。

 果たして、成功するか失敗するか──

 神のみが、知っていた。

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