第9章 様々なアプローチと可能性
第48話 オバケン×CLOSS「生贄たちの挑戦」新たなLARPの可能性!
時は前後して、10月頃のこと。
とあるメールが、ぴろろん♪とパソコンを鳴らした。CLOSSへのメールだ。
「あれ? なんかメール来てるよ星屑さん……おおおおお!?」
なんと、「オバケン」(※1)阿佐ヶ谷DARK GAMEという、常設商業イベントとのコラボ企画のお誘いだった!! そのお話を聞く限り、LARPというものをコンテンツとしてやってみたいとのお話だった。
(※1)オバケン……元々は方南町でお化け屋敷を行ったことがきっかけで、様々な活動を行っている企業団体。阿佐ヶ谷DARK GAMEはその常設店舗にあたり、普段はトークイベント形式で様々な催しを行っている。
「おー、うちの小道具と合わせて、見立てを極力少なくすれば、豪華なゲームができるかも?」
「とはいえ、色々課題もあるね。いつもは対参加者だけど、今回は対お客さんになる。どういう風に盛り上げて、どういう風に安全を守ればいいのか、それについて考えていきたいなあ。何にせよ、一度お会いしよう」
というわけで、私たちは猫目さんと一緒に、阿佐ヶ谷アニメストリートに赴くことにした。阿佐ヶ谷駅で待ち合わせていると、柔和な表情を浮かべた、若い男性がやってくる。彼こそがメールの差出人こと、店長のモノさんに他ならなかった。
「CLOSSさんですね。お会いできて光栄です!」
そのまま、会場へと案内される。まだ改装前ではあったものの、その内装は一部だけでもかなりクオリティが高く、「こんな所でできるの!?」と我々CLOSSスタッフは大興奮!!
「では、実際に色々と話し合いましょう。実現可能かどうか、出来るならばどのようにするか───等を」
さて、ここからは詳細を割愛しよう。しかし実に熱の入ったお話が繰り広げられ、我々も「これは行ける!」と思った。
しかし、大阪LARPを終わらせてから余裕が少なく、今回はかなりスケジュールがきつめだ。よって、我々は意地でもスケジュールに食らいついた。
そしていよいよ、チケット予約販売当日。夜に販売スタートし、ヒヤヒヤしながら見守っていたが、就寝時間となり、私たちは翌日の仕事のため止む無く就寝した。
そして、翌朝。
「か、完売……!?」
「え、スタートから12時間以内に完売したってこと……!?」
ここで地道に周りに聞いてみた所、知り合いはおろか、私たちの知らないルートの方々からの購入がほとんどだったらしい。(現に、当日分かることとなるが、対面したお客様は皆、ほぼ初対面の方々が大半だった)
というわけで、元々は販促も兼ねていたはずのプレスリリースも、チケット完売後に発表という異様な状況に。これは、これは、一大事である!! それだけ、LARPゲームへの興味も、期待度も、とんでもなく高かったということなのだ!!
さて、プレッシャーに押しつぶされそうになりつつも、クオリティを最大限まで高めつつ、矢のように日々は過ぎ去り───遂に、前日となったのである。前日は、各人の友人をテストプレイヤーとして迎えた、いわゆるリハーサルを行う。
ここで、我々は仕事としてLARPゲームを行うことの厳しさをじっくりと味わうことになる。しかし、間違いなくそれは、クオリティをさらにアップするための最後の「研磨石」だった。しかも、主催であるオバケン本社からも幾人かスタッフが来てくださり、貴重なお話をたくさん頂くことができた。
それは、間違いなく厳しい意見だった。LARP未体験であるが故の客観的な、でも鋭く貫く意見。
正直に言おう。著者は、そういった意見を聞いて、心中はかなり動揺していた。危機感。焦り。そういったものが押し寄せる。著者は小胆なのだ。本当に大丈夫なのか。私たちはやりきれるのか。今までやってきた沢山の作業が、皆無駄になってしまうのかと、小さく震えていた。
しかし───
代表であり夫の星屑は、そんな私を見て、暖かく肩を抱いてくれた。
「ゆーさん、大丈夫。俺たちはこれで3年やって来た。どんなトラブルだってその場で乗り越えられてる。今回のリハーサルで出された意見は厳しいものだ、けれど間違いなく建設的で、より良くなるための実現可能な意見だった」
確かに、その意見はより良くなるための鍵に等しいものだった。私たちだけでは、気付くことが難しかったに違いない。オバケンスタッフのベテランたちは、LARP未体験であるが故に外側から問題点を見ることができたのだ。
さらに、その熱意と誇りたるや! ゾンビとなる上でのこだわり、お客さんを楽しませるための心配り、ぐいと引き込むためのノウハウ、それでも安全面は決して忘れない。その細やかな配慮。彼らが「オバケン」として、多彩に積み重ね研鑽した、その珠玉とも言える「経験」から紡ぎ出された貴重な意見だったのだ。
どれだけありがたいことか、読者諸兄ならお分かり頂けるだろうか?
「大丈夫。こんなに熱く、一緒に歩むために意見を出してくれる人たちなら、俺たちはやれるよ」
「……そうだね。うん。君となら、みんなとなら、やれるね。みんなを、自分を……信じるよ!!」
その後、オバケンスタッフとは熱く熱く語り合い、熱くなりすぎてうっかり終電を逃してしまうほど語り合いながら、当日直前ギリギリまで最終調整を行うこととなった。
そして迎えた、本番───
クトゥルフ神話の世界を舞台とした、「生贄たちの挑戦」が幕を開けようとしていた。
当日直前まで粘って繰り返した最終調整は、ゲームスタートの最初から生きてきた。それはまさに、私たちにとって水を得た魚。3年と言う月日から得てきたLARPゲームGMとしての経験が、ゲームを動かしたその瞬間から、歯車がカチカチと噛み合っていくかのように、力強く動き出し始めたのだ!!
「うーん、これ、どういう意味だろう」
「あ、ここって、この単語ってもしかしてそういう意味なのかな?」
「誰だ、『スキル : 隠す』で大事なもの隠した人はーっ!?」
「それ隠しちゃだめー!?」
「えへへ、いやあ自由に『隠せる』って楽しいねぇ」(スッと隠した物を取り出して)
初対面のお客さんたちは、どのように動けばいいか分からないながらも、精一杯、ベストエンドに向けて調査と会話をしていく。おそらく、プレイヤーにも別キャラクターとしての設定を作り、演技を求めるなんてイベントは、前代未聞だろう。だというのに、このお客さんたちの生き生きとした顔!
自分たちが勝手に動いていいんだ!
自分たちで色々作戦立てていいんだ!
自分の物語を紡いでもいいんだ!!
スタッフ(NPC)に話しかけちゃってもいいんだ!!
まるで、映画の一場面に飛び込んだみたい!!
自分が登場人物になったみたいだ!!
そんな嬉しい声が、楽しそうな目と顔で語られていくかのよう。そう、それこそ、LARPゲームの醍醐味!! 皆、誰もがこの物語の主人公なのだ!!
対して、スタッフたちは打ち合わせ通りに、ベストを尽くして挑んでいく。五感で体験する楽しさ、光、闇、視覚、聴覚を最大限に活かして、今までの謎解きゲームとは一味違うものを生み出していく。
それはある意味、皆で作り上げる物語だった。リアルタイムで紡いでいき織り成す、生存を賭けた文字通りの、「
そしてなんと……蓋を開けてみれば、全員が「生還」できたのである!! もちろん、少しでもとんでもない選択をしていたら、きちんと全滅のエンドも用意してあった。それだけに、感慨もひとしおだ。皆の顔も晴れやかで、どれだけの体験を彼らに経験してもらえたのか、推して知るべしである。
実際、ツイッターでも多くの方々が感想を残してくれた。こちらに当日のリポートがまとめてあるので、ぜひお読み頂きたい。
【ホラーLARP】
2016年12月23日開催「生贄たちの挑戦~狂気の館から脱出せよ~」リポート
https://togetter.com/li/1063321
オバケンスタッフの方々にも大いに喜んで頂き、我々はまた、熱い熱い握手を交わすことができた。オバケンとCLOSSなら、どこにもない程に新しく、また素晴らしいものができる!! 間違いなく確信したのだ。
それは、イベントを実際に一緒に進行することで感じられた部分でもあった。プロとしてゾンビアクターを行う上で気を付けること、意気込み、こだわり、そして安全面への最大限の配慮。まるで何年も前から一緒にやっていたかのような、息の合う動き。それほどまでに、ピタリと吸い付く何かを感じられたのだ。
この年の暮れ、最後の最後に、こんなに飛躍をすることができるなんて。出会いに、運命に、CLOSSスタッフに、そしてオバケンさんたちに改めて感謝を。
さあ───来年は、もっと突っ走るぞ!!
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