第16話 初の「全滅」というシナリオ事故

 新たなメンバーを迎え、冒険者たちはどんどん冒険をクリアしていく。冒険者の店「踊る野うさぎ亭」の店主グレイスもご満悦だ。そんな中、とあるシナリオでお忍びのプラータの姫フェレスが、国を救うためにこっそり冒険者たちを護衛に依頼し、クエストをクリアする話があった。こちらは成功に終わったのだが──


「ねえねえ、この姫様、こんな風に自由に動いてると、妖魔たちに目をつけられない?」

「そうだねえ。じゃあ、お姫様がさらわれる話をやってみようか」

「いいねえ。これを冒険者たちが奪還するとヒロイックだねー」


 そんな軽い気持ちで、さらわれる姫を救い出すという、中世ファンタジーあるあるな話を実現するため、シナリオを作成することに。

 それがまさか、あんな大惨事を生むとも知らずに──


 さて、そのシナリオを使ったゲーム当日は実に盛り上がった。依頼人は正真正銘無実だが、彼を助けて一緒に来たというNPCが実は妖魔側の人間で、冒険者たちを騙して一緒に潜入し、最後に裏切る。そこまでの間にNPCの裏切りを冒険者たちが見抜いてくれることを期待した。


 しかし、現実はそこまで甘くはなかった。


 まず、NPCの立ち回りが非常にクレバーで、逆に冒険者たちが彼の意図を見抜けなくなってしまったのだ。怪しいとは思っても、決定的な証拠がなく、ゆえに強引に動くことができない。彼はさらに妖魔側の戦いに有利になるように様々な武器もゲットしてしまった。


 さらに、最後の戦いでも予想外の展開に。裏切る所までは良いとして、そのNPCは魔法使いだったのだが、なんと、魔法詠唱は! 流暢にスピーディに魔法を判断し使用、ベストな行動をとる! という、NPCにするには勿体ないほどの素敵な戦い方を展開してしまった。


 しかも、彼は冒険者に容赦がない。GMも驚くほど早い段階で冒険者側がほぼ全滅してしまい、最後に立っていた最高装甲点を誇る騎士も、盲目の魔法をくらい為す術なく気絶。妖魔側が助ける理由はないので、間違いなく全滅──この場合は全員「」──となった。


 この時の、口の中に広がる苦虫を噛み潰したような嫌な味は、今でも鮮明に思い出せる。GMもNPCもスタッフ陣も、完全に想定外なシナリオ事故に、ひやりとしたものを感じた。本来なら、これはそのままキャラロストだ──だが、今回はたまたま王族からの依頼だったため、帰ってこない冒険者たちに、念のため王族(貴族)に依頼されてやってきた盗賊たちが、彼らを回収、貴族のコネクションで生き返ることに成功、という手段をとった。これは甘い対応というわけではなく、本当にたまたまそういう条件が揃ったのだ。


 当時の混乱を生々しく、こちらのトゥギャッターに写真入りでまとめてあるので、是非見てほしい。


 第14回ゲーム「姫に忍び寄る魔の手」リポート

 http://togetter.com/li/699809


 これは該当NPCのせいではない。間違いなく、スタッフ側の指示及びシナリオミスである。当時の反省も込めて、問題点を挙げてみよう。


・NPCがPCを騙すというPvPに近い構図は事故を生みやすい

 ある程度の対立はあってしかるべきだとは思うが、パーティの戦力になり、重要な情報源になるとなると話は別だ。一緒に仲間として行動するNPCがPCを騙すという行為は、意外とPCたちは決定的な行動をする決断をしにくいということ、そしてかなりの不確定要素になってしまうことを考慮に入れるべきだった。また、NPCとPCが対立してその結果がシナリオを左右するような話にしてしまうと、NPCがよほど慣れた人間でない限り、GMもNPCをコントロールしにくいという点もあった。


・該当NPCはもっともっと隙を見せ、負けても良いことを指示しきれていなかった

 これはNPCはPLたちを楽しませるために存在するのであり、ただ単にストレスを与えて倒すことに全力を注ぎまくる存在ではないということに由来する。今回の該当NPCがまだNPCという立ち位置行動に不慣れであったこともあるが、何にせよ、あまりに上手に立ち回りすぎるとPCたちを過剰に不利な状況に追い込んでしまうため(何せ、我々はシナリオを用意する立場なのだから)、隙だらけ、少し力を抑えるくらいで丁度良い、ということを伝えきれていなかった。


 本当に、我々スタッフは猛省すべき部分である。

 また、この全滅という希少な機会とともに、ある状態が浮かび上がってきた。


 全滅後、生き返ったとはいえ、ゲーム後の雰囲気が「お通夜状態」だったのだ! 皆揃って沈痛な顔で(そりゃ当然だろう)、かなり堪えているように見えた。我々もうっすら察してはいたのだが、欧米人に比べ、日本人はキャラクターへの愛着をきちんと注げていける所がある。「死んだね、じゃあ新キャラだ!」という風にすぐに頭を切り替えられる人間は少数なのだ。実際、レイムーンLARPでも特に気にしない人はいたが、2〜3人程度だったと思う。


 レイムーンLARPでは、基本的によほどヘマ、愚策、モラルに反した行動(要するに本人たちが納得できる範囲内での自業自得)を派手に行わない限りは、全滅はしないバランスに抑えている。その理由は、前述に記した通り、参加者たちが戦うことだけが目的ではなく、ストーリーを楽しむことが目的だからだ。しかし、この回に限り、スタッフのミスによってPCたちに本来の意図ではない全滅を経験させてしまった。この経験は、今後のゲームへの大きな警鐘となり、スタッフの胸に深く刻まれたのだ。


 しかし!


 妖魔たちにさらわれた姫!


 窮地に追いやられたプラタ王国!!




 この状況、やばくね?




「どーしよう、星屑さん…」

「あははははは…」


 かくして、我々は、この状況を打破するシナリオを考えるべく、三日三晩頭を抱えることとなるのである。

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