第54話 異世界顕現!! 星降る森の魔法市

 「異世界の魔法市を現代日本に『召喚』したら、楽しいんじゃないかな…」


 ぼーんやりと考えていた、某日冬のこと。私たちは何度かLARPゲームを行う中で、暗闇の探索を重ねて、その暗闇と光の魅力にすっかり虜になっていた。そして、そんな中でふと、思ったのだ。


 真っ暗な即売会ってあまりないよね?


 もちろんあることはあるけれど、純粋に西洋ファンタジーに重きを置いた即売会イベント、しかも真っ暗は、あまりお目にかかっていない気がする。私のアンテナが鈍いからかもしれないけれど…


 そして、最近は魔法雑貨が本当に豊かになった。作家さんがそちらに力を入れてきており、なんとも素敵で、目の前にあったら即買いしてお財布が空っぽになりそうな、魅力的な商品を出してくれている。光ることに目を向けた雑貨も多くなって来た気がする。


 だとすれば───


「魔法市、現代に召喚することも可能なんじゃないかな…?」


 閃いたら、善は急げ。コストマリー事務局代表であり、友人でもある繻 鳳花さんに話しかけていた。


「中世ファンタジーオンリーの即売会ってやってみたいなーと思うのです。着替えてもいい、着替えなくてもいい設定を設けて…」

「ふむふむ。従来の即売会とはちょっと違う趣ですよね」

「ええ。いっそのこと、没入型体験イベントにしてしまうのはどうでしょう? この即売会をまるごと、『異世界の森』に仕立ててしまうんです。闇の中であれば、限度はありますが、公共施設でも没入感を損なうことなく楽しめると思います」

「なるほど、面白そうですね!」


 公共施設でそんなことできるの? と思う方も多いだろう。できるのだ。LARPゲームを開催し続けている私たちのノウハウを活かすことができれば───場内を暗くして、闇の中でランタンの明かりだけが蛍火のように浮かぶ中、祭りの音楽が奏でられる、そんな世界を作り上げることができる。


「やりましょう。そして、魔法市を成功させましょう! ただ、LARPゲームとは区別した方が良いですね」


 さすがに暗闇の中でチャンバラ戦闘はできないし、シナリオLARPを求められても、管理が難しい。その辺りは徹底してラインを引くことで、あくまで『没入型の体験即売型イベントである』とした。


 こうして、我々のリアル異世界召喚は幕を開けたのだった。


 そこからは、舞台となる月夜森についての設定を作り上げた。


 月夜森は特別な魔力を湛えた大きな森。夜空から数千の星が降る夜、異世界へのゲートが開く。その夜は『たまたま』埼玉県入間市の施設へと開いた。異界の住人の蠱惑的な魔法具が眠る魔法市。現代日本人も参加できる新たな即売会───


 星降る森の魔法市。


 ビジュアルイメージとロゴも、かなり力を入れて作成した。静かな森に幾千の星が浮かび、暖かな光が浮かび上がるイメージは、数時間かけて形にしたいと願った私の魔法のひとつ。


 そう、たぶん。


 みんなの願う力が、魔法市を成功に導く。私は、そう確信していた。


 ───準備の末、辿り着いた当日!


 運営・出展ブースともにそれぞれの世界に基づいた衣装とブース作成を施す。著者も魔法市の取りまとめ役でありエルフの「モニカ・リュンクス」に扮し、参加者たちの入場を見守る。


 そして───静かに、重々しい木の扉が開かれ───


「うわあ…!!」

「すごい!」

「本当に真っ暗だ…!!」


 感嘆の溜息が、宵闇の森へ足を踏み入れた人々から漏れる。


 参加者たちが持参した、または手作り、もしくは市で購入したランタンが煌めき、蛍火のように行き交う。祭りの露店のように出されたブースの妖しい輝きは、まるで炎の輝きに抗えぬ蝶のように、客を引き寄せていく。耳を閉じれば───嗚呼。遠くから聞える、北欧方面の軽快で素朴な音楽。

 

 まるでそのまま冒険に行けそうな革鎧、武具、寓話から飛び出した魔法使いの魔法具、美しい妖精ランタン、不思議な魔法鉱石等々……極彩色の美しい、そしてとびっきり怪しい品々が現れる。その目の保養といったら!! 中には、怪しさMAXのテントの中にいる男が、たっぷりと世界に引き込む言葉とともに、購入したものをゆっくりと紐で縛り、渡すのだ。


 また───


「さあさあさあ、お立ち会い。ドワーフとの腕比べ! 腕相撲大会の時間だよ!!」


 なんと、会場に現れた大きなドワーフの腕相撲大会が開催される!! ここは会場内が異様に盛り上がり、やんややんやの大喝采。小柄で可愛らしいエルフが、ドワーフとの腕相撲に大健闘を繰り広げたり、すべてが規格外、予想外の楽しさだった!!


 また、会場内では、魔法召喚符という暗闇で光る札を販売し、規定枚数を超えたら、皆の魔力を分け与えられたことにより、次回開催が確定するという魔法を込めた。妖艶な魔女が市内で売り歩く中、様々な人間が買い求め、想定以上の魔力が集まっていく。


 本当に、没入感がたまらない!! ずっとここにいたいくらいだ。しかしいつしか、東の空から太陽が昇り、明けの明星が現れ、魔法市は消滅してしまう。魔法は解けてしまうのだ。12時になったら、シンデレラの魔法が解けてしまうように、儚く……


 夜明けを間近に控え、モニカは最後に皆を集めて、宣言した。


「次回の魔法市を日本で開催するためのゲートは確定した。これは皆が願って叶った奇跡の魔法…魔法召喚符を手に入れた皆に心からの拍手を!」


 魔法市に集った者たちは再会を願い、かくしてゲートは閉じられる。次は果たして日本のどこに現れるのか───それまで、楽しみに現実世界へと戻って行こう。


 ゲートはどこにでも開き、希望の光は、どこにでも差し込むのだから。


 実際に行われた「星降る森の魔法市テスト開催」リポートはこちらにまとめられている。是非、あなたの目でご覧いただきたい。また、今後の開催についても、公式サイトやツイッター公式アカウントが存在するので、是非チェックして頂きたいと思う。


【中世ファンタジー】2017年4月9日 星降る森の魔法市テスト開催リポート

https://togetter.com/li/1100196


星降る森の魔法市公式サイト

https://hoshimori.jp/


星降る森の魔法市公式ツイッターアカウント

@hoshimorimagic

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