概要
左の指先から手首までを、深い深い暗闇の沼に浸したような、異常な痣。それは、彼の人生を決定づける、忌まわしい呪いの印だった。
呪いに蝕まれた少年と光り輝く奇妙な少女、そして夢の中に現れる若き魔術師。三人の運命は五百年の時を越え、やがて交錯する。
呪いの謎を巡る、魔術と輝石のハイファンタジー長編。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!文字だからこそ心の染み渡る世界観
物語はとても良く練られていて、読後感は切なく祈る気持ちにさせられます。
伏線の回収が始まるあたりから、悲しい物語が見えてしまうのですが、それでも「どうか想像どおりにならないでくれ」と祈りながら一気に最後まで読んでしまいました。
他の方がレビューなさっているように、文章の表現力が繊細なのは間違いないです。けれども、それがビジュアルとして成立するかというと、おそらくそうではないと私は思います。
宝石、瞳、髪、肌の色。そして匂い。文字だからこそ、巧みに心理描写やアンビエントとして機能し、読者の心の中であくまで想像としてビジュアライズされる。それがすごくうまいし、美しい世界へ引きずり込まれていきます…続きを読む - ★★★ Excellent!!!色とりどりの糸で、丁寧に織られたストーリー。
タイトルに引き寄せられ、ハッと気がつけば本編を読み終わっていました。そのくらい引き込まれる丁寧な描写と、あちこちに張られた伏線の回収に感嘆のため息が出ました。素敵な作品に出会えて本当によかった。
不幸としか言いようのない境遇のロクドが、それでも必死に生きてきっと呪いを解くんだともがく姿、彼を取り巻く人々のぬくもりやその底に渦巻く感情。呪いの謎や蔓延する病気、登場人物の言動……お話の全てが繋がったとき、私は一旦スマホを裏返してしまいました。
またもう一度、いや、何度も何度も読み返したくなる作品です。
(個人的に、食べ物の描写がとても美味しそうで好きです!) - ★★★ Excellent!!!罅割れから溢れ出す狂おしさ、世界の美しさを抉りだす言葉たち。
物語と、言葉によって浮かび上がる情景、全てが美しい。
まるでひとつの美術品のような小説です。
次々に紡がれる文章を追って読んでいると、作者が抱えている豊かな色彩が、風景が、頭の中に直接なだれこんで来るかのようです。
輝く風車、秘密に満ちた魔術師の部屋、謎めく路地裏、優しい人々の暮らす明るい港町……と、ときどき物語から離れて、その情景を思い浮かべてぼうっと遊んでいる自分を発見しました。素晴らしい読書時間でした。
特別にハイファンタジーに詳しい、というわけでもないのにこういうことを言うのは本当におこがましいのですが、とてつもなく完成度の高い作品です。たとえば乾石智子先生(『夜の写本師』等)…続きを読む - ★★★ Excellent!!!徹底して緻密な描写が読者の心を打つ。漂泊の少年は、旅路の果てに何を見る
呪いを受けて故郷を放逐された主人公が、旅の魔術師と出会い、己の運命と戦うことになる。重厚な世界観と、どこまでも緻密な叙述が『ゲド戦記』を髣髴とさせる、本格ハイ・ファンタジーです。
本作品最大の魅力は、前述のとおりその描写の綿密さ。
作中世界の空気の匂いまでも伝わってくるような情景描写も見事ですが、台詞を多用せず、地の文で行われる心理描写も実に細やか。キャラクターの心の動きが、ひしひしと伝わります。
また、世界観の重厚さも特筆すべき点でしょう。
詳細に創り込まれた設定も、主人公の成長とともに徐々に明らかになっていくため、読者が「設定を詰め込まされている」と感じることはありません。
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