罅割れから溢れ出す狂おしさ、世界の美しさを抉りだす言葉たち。

物語と、言葉によって浮かび上がる情景、全てが美しい。
まるでひとつの美術品のような小説です。

次々に紡がれる文章を追って読んでいると、作者が抱えている豊かな色彩が、風景が、頭の中に直接なだれこんで来るかのようです。

輝く風車、秘密に満ちた魔術師の部屋、謎めく路地裏、優しい人々の暮らす明るい港町……と、ときどき物語から離れて、その情景を思い浮かべてぼうっと遊んでいる自分を発見しました。素晴らしい読書時間でした。

特別にハイファンタジーに詳しい、というわけでもないのにこういうことを言うのは本当におこがましいのですが、とてつもなく完成度の高い作品です。たとえば乾石智子先生(『夜の写本師』等)の小説を読まれる方でしたら、世界観も物語もきっと好きになれると思います。

このお話に会えてよかったです。


※この先で小説のくわしい内容に触れますので、先入観なく読みたい方はブラウザバックをお願いします※




最後に、登場人物について書かせてください。
物語を全て読み終わり、ロクドとはじめて出会った頃のカレドア先生の描写を読み返し、表情や言葉に胸が詰まりました。人の弱さや愚かさ、不幸を受け入れられない、まっすぐな人だったのかな……とこれは読み手の想像でしかありませんが、彼のあり方に非常に打ちのめされます。ラストシーンが壮絶で、それでいて繊細で、深く心に残りました。

2016/09/03追記
泡沫の夢を読ませていただきました。本編を読んだあと、先生の救済についてちらっとでも考えたことのある読者にとっては、まさに夢の短編でした。ロクドとの交流があたたかく、歌を通して先生がレドニスだった頃の表情をみせるシーンに胸打たれましたが、別れ際の激しい言葉のことを考えると寂しく思えてきます。

レビューというよりちょっとした感想、といった形になってしまってすみません。失礼いたしました。

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