徹底して緻密な描写が読者の心を打つ。漂泊の少年は、旅路の果てに何を見る

 呪いを受けて故郷を放逐された主人公が、旅の魔術師と出会い、己の運命と戦うことになる。重厚な世界観と、どこまでも緻密な叙述が『ゲド戦記』を髣髴とさせる、本格ハイ・ファンタジーです。
 本作品最大の魅力は、前述のとおりその描写の綿密さ。
 作中世界の空気の匂いまでも伝わってくるような情景描写も見事ですが、台詞を多用せず、地の文で行われる心理描写も実に細やか。キャラクターの心の動きが、ひしひしと伝わります。
 また、世界観の重厚さも特筆すべき点でしょう。
 詳細に創り込まれた設定も、主人公の成長とともに徐々に明らかになっていくため、読者が「設定を詰め込まされている」と感じることはありません。
 呪いに運命を弄ばれ、大切なものを喪いつつも、主人公ロクドは成長していきます。師カレドア、そして少女ヨグナと出会いが、まるで何かに導かれるように大きな運命の渦に巻き込まれていく。ロクドの旅路の果てに、なにが待つのか――ぜひ、ご自分の眼で確かめてください。
 ページを開いたとき、その文章に込められた情報量に圧倒され、読み進めることを断念した読者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この密度の高い文体を敬遠せずに、じっくり腰を据えて読み進めて欲しい。そう主張したい作品です。

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