いやあ、これはすごいですよ。何がすごいと言って、
1.剣戟がすごい!
著者は剣術を学んでいるようで、剣戟描写の芯のところは剣術の雰囲気があります。相手の思惑を外し、逸し、ときには受けて致命の剣を届かせる!「奥義は技ではなく、目に見えぬもの」とは作中のセリフですが、まさにそのとおりの駆け引きが熱い!剣vs剣だけでなく、大鎚との対決などもあり、とにかく素晴らしいファンタジー剣戟が楽しめます。
2.構成が豪華ですごい!
まず最初の章、妊婦を含む娼婦たちを連れて、精強な傭兵団を向こうに回しての逃亡劇。今まで人を斬ったこともない若い主人公が剣1本で立ち向かう!縁もゆかりもない娼婦たちのために死地へ飛び込んでいく主人公の命がけの戦い、これは燃えます!
かと思いきや、二章では舞台を変えて、ファンタジー要素を入れての立ち回り。異国の強者のみならず怪物の相手あり、謎めいた暗殺集団との物悲しき対決あり。
さらにさらに4章では、主人公の剣術の源流となった国で正当の剣術勝負へ!(ネタバレですが、日本風の国ではありません)
バリエーション豊かな舞台で剣戟描写にどっぷりと浸れます。
3.主人公が時代劇ですごい!
さわやかイケメンの若い主人公、さらに剣の腕も立つ。しかし嫌味さがないのは、斬ること、守ることに思い悩む人間らしさがあるからでしょうか。剣のほうも、達者なれどまだまだ達人には遠い境地。まさに鳳雛の旅立ちという風情です。
以上3点に魅力を感じる方、これは読むべきですよ!
小説における「戦い」というのはアニメや漫画のそれとちがって、視覚に訴えることは難しいので、どうしても内容で勝負ということになる。
そのため、多くのバトル小説、アクション小説では、この問題は戦う人間の背景で生まれるドラマで生まれた伏線の回収として解決を試みられることが多い。「もう許さん!」とか「貴様はあの時の!」という形で描かれるアレである。言い方を変えれば、そういう方法をとらないと小説という媒体では戦いというのはなかなか盛り上げにくいものである。
鳳雛の騎士も、上記のような方針でバトルシーンは盛り上げられている。しかしこの小説が他と違うところは、加えてチャンバラの微妙な機微を懇切丁寧に書いているところだ。シーンを切り出して読んでいても圧倒されるほどの濃密な剣戟の音が聞こえてくる迫力がある。何発もガキンガキンと打ち合ったり苦戦してから必殺の奥義で逆転という、陳腐なファンタジー小説の描写ではない。ここがどういうところか、相手はどういう形で襲ってきたか、自身はどういう状況にあるか、一撃をどう受けたか、どう返すか、そうした描写が巧みであり、さらには何を考え、その意図がどのような結果に至ったかということも含まれている。バトル好き垂涎の作品だ。
魔法も魔物も出てこないが、それ無しでも楽しめるパワーある小説だ。主人公の誠実な性格もかっこいいし、ヒロイン達も個性的でかわいらしい。この痛快なアクションの良さは、ぜひ多くの方に知って欲しいところである。
領主の子を孕んだ娼婦を助け出すため、一人の騎士が辺境の街へ派遣される。
冒頭読んで、てっきり老練な騎士が赴くのかと思ったら、派遣される騎士は、昨日まで見習いだったひよっ子の新人騎士。ただし、腕は確かだ。とはいえそこはいろいろと経験不足。
折しも辺境の街は隣国の侵略を受け、敵の凄腕傭兵団が攻め込んでいる。その包囲網の中を突破する騎士と女性五人。女性の中には妊婦や子供や娼婦や処女、母が含まれる。つまり婆ちゃん以外のすべての女性だ。それを守るは序列最下位の騎士一人。
とにかく幾重にも張り巡らさせた危機が半端ない。敵の傭兵団は攻めてくるし、領主の子を孕んだ娼婦は味方からも狙われる存在。地理的にも不利だし、一行は目立つし(笑)。
その包囲網を突破してゆく騎士も、決して神のような超常能力者ではなく、一個の人間。本作は騎士が主人公のため一見ファンタジー作品と思われがちだが、内容は中世異国のダイハードだ。
とにかく作者が作り込んだ世界観がリアルの一語に尽き、たった一人で数多の敵を相手にする騎士のバトルも、徹底的なリアリズムをもって描かれている。
きっちり構築された世界観に、手抜きのないストーリー展開。そして重厚な文章は、お子様お断りの大人の物語。
また、本作の秀逸なところは、五人の女性を守るたった一人の騎士という燃える設定とともに、それを逆から見ると、ほぼすべてのバリエーションが揃ったラインナップの女性たちに囲まれるたった一人の男という、一見ハーレムだが、その実騎士殿の貞操の危機というちょっと愉快な人物配置。
か弱き女性たち。だが、実は強(したた)かで逞しい。そういうリアルな女性たちを、幻想を排した上で愛せる大人の男でないと、本作の楽しさは半減してしまうかもしれない。
本作は、どこをどうとっても、お子様お断りの作品であるので、そこはご注意願いたい。
むせかえるような血や鉄の臭いさえ感じさせるほどのアクション描写と、息もつかせぬ怒涛のストーリー展開。それに、登場人物たちの葛藤が絡み合い、ひとつの大きな物語が紡がれる――傑作冒険活劇と呼ぶにふさわしい一作です。
戦火の迫る街から、領主の妾である娼婦を連れて脱出せよ――序列下位の騎士クライフが、領主直々の特命を受けたことから物語は始まります。
一見簡単そうにも見えるこの任務ですが、そこにはすさまじいまでの困難が待ち受けていました。
政治的な意図が複雑に絡み、クライフと護衛対象たる娼婦たちが置かれるのは、作者様のキャッチコピーにあるとおり、自分たち以外「総て敵」という状況。
主君から与えれられた使命を果たすため、そして力なき女たちを護るため、クライフは次々と訪れる困難に立ち向かっていくことになります。己が信念のみを支えに、歯を食いしばり、何度でも立ち上がる彼の姿には、思わず胸を熱くさせられます。
どこか朴訥としていながら、熱い魂を胸に秘め、どこまでも自ら信ずる道に殉じようとするクライフは、読者の胸を打つことでしょう。
レビュー冒頭で触れたとおり、アクション描写は圧巻の一言に尽きます。互いに隙を窺う睨み合いから一気に殺陣になだれ込み、そして決着――『静』から『動』へのテンポの切り替えが非常に巧みであり、命を賭した真剣勝負の緊張感がいや高まります。
戦闘中の台詞回しやちょっとした言葉のチョイスも、小憎らしいほどに格好いい。個人的なお気に入りは、『乱れる麻縄のように』クライマックスシーンで、クライフが青龍に言い放つ台詞ですね。
切なさを伴う余韻が印象的な第一章を経て、クライフの物語は新たな舞台で展開していきます。一章とは毛色が変わったものになっていますが、痛快なアクションや流れるようなストーリー展開は健在。続きが待たれます。
いつかクライフの旅が終わり、安息を得ることができるときが来ることを、祈らずにはいられません。
まず、「領主の愛妾を護衛して送り届ける」という主人公・クライフの目的が明確なため、物語にしっかりとした筋が通っている。主人公がいったい何をしたいのかが不明な小説が多い中、緊迫感を保って最後まで読み進めることができる。
そして、次々と現れる追手との対決シーンが迫力の一言である。血と鉄の臭いが画面越しに伝わってくるかのようだ。
血なまぐさい場面が続く中、旅の仲間である女性たちとクライフとの掛け合いにはほっと一息つくことができ、良いアクセントとなっている点も特筆すべきだろう。
何と言ってもクライマックスシーンにおける傭兵団長・カーライルとクライフとの決闘は、圧巻の一言。師匠である「隻眼の老人」の存在も、まことにいい味を出している。
余韻を残す読後感もまた素晴らしい。タイトル通り、クライフが鳳となって物語世界で大きく羽ばたく姿を想像しながら、本作を読了した。大人の読者に自信を持って推薦できる作品である。ぜひ、続編にも期待したい。