文面から巻き起こる刃風が、剣戟の声が、読者の胸を熱く打つ!

 むせかえるような血や鉄の臭いさえ感じさせるほどのアクション描写と、息もつかせぬ怒涛のストーリー展開。それに、登場人物たちの葛藤が絡み合い、ひとつの大きな物語が紡がれる――傑作冒険活劇と呼ぶにふさわしい一作です。

 戦火の迫る街から、領主の妾である娼婦を連れて脱出せよ――序列下位の騎士クライフが、領主直々の特命を受けたことから物語は始まります。
 一見簡単そうにも見えるこの任務ですが、そこにはすさまじいまでの困難が待ち受けていました。
 政治的な意図が複雑に絡み、クライフと護衛対象たる娼婦たちが置かれるのは、作者様のキャッチコピーにあるとおり、自分たち以外「総て敵」という状況。
 主君から与えれられた使命を果たすため、そして力なき女たちを護るため、クライフは次々と訪れる困難に立ち向かっていくことになります。己が信念のみを支えに、歯を食いしばり、何度でも立ち上がる彼の姿には、思わず胸を熱くさせられます。
 どこか朴訥としていながら、熱い魂を胸に秘め、どこまでも自ら信ずる道に殉じようとするクライフは、読者の胸を打つことでしょう。
 

 レビュー冒頭で触れたとおり、アクション描写は圧巻の一言に尽きます。互いに隙を窺う睨み合いから一気に殺陣になだれ込み、そして決着――『静』から『動』へのテンポの切り替えが非常に巧みであり、命を賭した真剣勝負の緊張感がいや高まります。
 戦闘中の台詞回しやちょっとした言葉のチョイスも、小憎らしいほどに格好いい。個人的なお気に入りは、『乱れる麻縄のように』クライマックスシーンで、クライフが青龍に言い放つ台詞ですね。

 切なさを伴う余韻が印象的な第一章を経て、クライフの物語は新たな舞台で展開していきます。一章とは毛色が変わったものになっていますが、痛快なアクションや流れるようなストーリー展開は健在。続きが待たれます。

 いつかクライフの旅が終わり、安息を得ることができるときが来ることを、祈らずにはいられません。

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