いかなる苦境に立たされようと、己の剣をささげた主のため、どこまでも愚直に戦い続ける――この作品は、そんな熱い魂と、手にした双剣のみを頼りに戦場を駆ける、一人の騎士の物語。
本作の魅力の一つは、やはり白熱のバトルシーン。この物語は戦記物なので、戦いの舞台は何千何万の兵たちがぶつかり合う戦場です。その中にあって、長大な大剣を二本振り回し、悪鬼羅刹のごとき活躍を見せる主人公アスラル――なんとも浪漫あふれる風景ではありませんか。
戦場というのは、むろん主人公ひとりの力でコントロールできるものではありません。主人公のみにスポットライトを当てていては、全体的な戦況は描写できないわけですが、この作品は『個人』と『全体』との描写のバランスが優れているように思えます。
そして、しっかり描くべき場面と省略して流すべき場面のバランス感覚にも優れており、結果冗長さを感じず、かといって物足りなさも感じない、臨場感のある戦闘となっていると個人的には感じます。
次にキャラクター。
主人公アスラルは、まさに「たとえ泥水を啜ってでも」という比喩がふさわしい、強い意志と忍耐力を持ったタフガイです。彼が抱く失われた故国、そして主君リースへの思い、そしてリースを救うためとはいえ、彼女以外の人間のもと戦うことへの苦悩――揺れ動くアスラルの感情が、この作品の一つのテーマとなるでしょう。
アスラルが(彼の中ではあくまでも仮に、ということになりますが)仕えることになるのが、ルーセシア女王パナヴィアです。作品タグにあるとおり、いわゆる「のじゃロリ」キャラ。国と民を深く愛し、類稀な戦闘力と統率力とを併せ持つ、王たるにふさわしい人物です。はじめは不承不承パナヴィアに従っていたアスラルも、彼女の志に感化され、徐々に共感を得ていくことになります。ふたりの関係は、かたちの上では主従ですが、どちらかというとバディに近いようにも思えます。その関係がどう変わっていくのかということも、今後のテーマとなることでしょう。
さて、レビュー執筆の段階では、壮大な戦記の幕開けとでもいうべき部分が終わったところでしょうか。アスラルの望みが叶う日はまだまだ遠そうです。今後の展開に期待します。