魔法も幻想も皆無!

 領主の子を孕んだ娼婦を助け出すため、一人の騎士が辺境の街へ派遣される。
 冒頭読んで、てっきり老練な騎士が赴くのかと思ったら、派遣される騎士は、昨日まで見習いだったひよっ子の新人騎士。ただし、腕は確かだ。とはいえそこはいろいろと経験不足。
 折しも辺境の街は隣国の侵略を受け、敵の凄腕傭兵団が攻め込んでいる。その包囲網の中を突破する騎士と女性五人。女性の中には妊婦や子供や娼婦や処女、母が含まれる。つまり婆ちゃん以外のすべての女性だ。それを守るは序列最下位の騎士一人。
 とにかく幾重にも張り巡らさせた危機が半端ない。敵の傭兵団は攻めてくるし、領主の子を孕んだ娼婦は味方からも狙われる存在。地理的にも不利だし、一行は目立つし(笑)。
 その包囲網を突破してゆく騎士も、決して神のような超常能力者ではなく、一個の人間。本作は騎士が主人公のため一見ファンタジー作品と思われがちだが、内容は中世異国のダイハードだ。
 とにかく作者が作り込んだ世界観がリアルの一語に尽き、たった一人で数多の敵を相手にする騎士のバトルも、徹底的なリアリズムをもって描かれている。
 きっちり構築された世界観に、手抜きのないストーリー展開。そして重厚な文章は、お子様お断りの大人の物語。
 また、本作の秀逸なところは、五人の女性を守るたった一人の騎士という燃える設定とともに、それを逆から見ると、ほぼすべてのバリエーションが揃ったラインナップの女性たちに囲まれるたった一人の男という、一見ハーレムだが、その実騎士殿の貞操の危機というちょっと愉快な人物配置。
 か弱き女性たち。だが、実は強(したた)かで逞しい。そういうリアルな女性たちを、幻想を排した上で愛せる大人の男でないと、本作の楽しさは半減してしまうかもしれない。
 本作は、どこをどうとっても、お子様お断りの作品であるので、そこはご注意願いたい。

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