健気に下働きする少女は高貴な香りを纏っていた。屋敷を取り仕切るのは、陽射しを嫌う赫い爪と唇の美女。執事たちは屍人のように表情を無くしている。そこに訪れた令息と付き人……
導入部の描写から強く引き込まれる傑作短編です。
外道の女に虐げられる少女の復讐譚。何も知らずに女に魅惑される暢気な貴公子……
そんな展開を予想しましたが、心地好く裏切られます。物語後半の流れは、全く以って予想外で、作者の仕掛けた巧妙な罠にすっぽり嵌った恰好かも知れません。
孤立する屋敷を舞台にした一昼夜の出来事に、過去の因縁も盛り込まれ、時間的な深みも付加されています。あたかも、シャルル・ペローの残酷童話風でもあり、ゴシック・ホラー調の舞台劇のよう。
傑出している点は、それぞれ役割を持った登場人物の位相転換です。ここは核心に触れる為、詳しくは明かせません。
全九話、一万字弱の短編でありながら、ヒロインらに対する感情移入は激しく、印象に残ります。是非、予断を持たずにお読み下さい。
本作、ミステリージャンルですが、トリック等の堅苦しさはありません。
すぐにトリップしてしまう、物語への没入感はさすがです。
血縁もない女主人に嬲られるようなs生活を送る、ヒロイン・レイ。
二人の青年が訪れたことで、物語は大きく動き出すのですが……。
言ってしまえば、快楽主義者的主人と、理性派侍従の組み合わせもさることながら。
ラストが、本当に最高でした。
王道でありながら、飽きさせない。
綺麗な薔薇には棘がある?
いやいや、本当に美しい薔薇は、ヒロイン・レイのように、愛情深く、なんとか自分を大切にしてくれた人を慈しみ、咲く。彼女のような人のことを言うのでしょう。
それを証拠に、ラスト。
レイが咲こうと力強く向き合うシーン、陽に晒されたように、真実を紡いだ瞬間は必見です。
その子爵家では、謎の美しい女が采配を取っているという。子爵はどこへ? その家族は?
そして、謎の女の指先は、真紅の爪が薔薇色に彩っているという……。
子爵家の下女はその日、来客の準備に追われていた。やがて屋敷を訪れる美しき伯爵令息とその従者。彼らはにこやかに謎の美しい女に語りかけ……。
見せ方が上手いです。そこにあるものを、意外な角度から描写することにより、物語にひねりの効いたミステリーが仕込まれています。そして、物語に差す深い闇と明るい日中の陽光。光と影。そして、意外な展開。
長編のプロローグとなるようなエピソードであり、ここから本当の物語が始まることを予感させてくれます。