「アルテアの魔女」と呼ばれる言葉(言の葉)を操る、健気な姫巫女・エレと、死神と畏れられる英雄・インシオンを中心に紡がれる、ロマンあふれる異世界ファンタジー。
強大かつ呪われた力を持つメインキャラクターたちは、時に力や立場に酔いしれ、過った選択さえします。しかし、その心の弱さや、降りかかる災難・困難を乗り越えていくことで、他人の痛みを分かち合い、幸せに生きる世界を作ろうと全力で戦っていく所が、この作品の魅力だと思います。
ヒロインのエレは健気さと純真さを持ち合わせた「姫」ですが、決して守られるだけの、都合がいいだけのキャラクターではありません。年ごろの女性としても悩み、時には自分の中にある闇や悩みとも真摯に向き合っていく姿は、強く、気高く、それでいて親しみの持てる素敵なキャラクターです。
ヒーローたるインシオンとの甘やかで真っ直ぐな恋の行方も、丁寧につづられています。
異国情緒あふれる描写の中には、現代の読者たる私たちが「おや、これは……」と思うような、親しみのあるものもあり、それが世界観の広がりを一層際立たせています。ただの「異世界ファンタジー」でない辺りに、作者さんの度量と工夫が見られます。
真っ直ぐで優しく、ひとの気持ちを信じている、そんな熱い物語が読みたい方、素直な姫とクールなヒーローが恋に落ちていく様を楽しみたい方にお勧めしたい一作です。
長年相争ってきた二国のはざまで翻弄されるのは、奇跡の力を宿す少女エレ。様々な思惑が絡み合う中旅するエレは、自らの持つ力の真実を知る――
超常の力を持つがゆえに、過酷な運命の流れに巻き込まれることとなったエレが、剣士インシオンと出会うことで、人生の大きな転機を迎えることになります。
この出会いがエレにもたらす精神的成長、そしてロマンス。この二つが、この作品の大きな見どころといえるでしょう。
王女として育ちながら、突如として厳しい旅路に投げ出されることになったエレ。苦難の連続の中で、彼女はどう変わっていくのか。
エレを助け、護るインシオンは、英雄と呼ばれる存在。無敵のヒーローのようにも見える彼にも、人知れぬ葛藤があります。
そんな二人は、互いに影響し合い、徐々にこころを通わせていくのですが――この過程に、読者はあるいはやきもきし、あるいは胸躍らせることでしょう。
東洋風とも西洋風とも、はたまた中東風とも違った――あるいはそれらがミックスされたようにも感じられる独特の世界観も魅力の一つ。その土地土地の気候風土、そして食べ物の違いなども、丁寧に描写されています。
そして、手に汗握るバトル。迫力とスピード感が両立する描写は、見事のひとことです。
第一部という一つの大きな山を越え、エレは自らの生きる道を選択することになります。これから彼女、そして仲間たちはどのような旅路を歩むのか。続きが待たれます。