人の醜さも優しさもいとおしさも、全て詰まったファンタジー

「アルテアの魔女」と呼ばれる言葉(言の葉)を操る、健気な姫巫女・エレと、死神と畏れられる英雄・インシオンを中心に紡がれる、ロマンあふれる異世界ファンタジー。
強大かつ呪われた力を持つメインキャラクターたちは、時に力や立場に酔いしれ、過った選択さえします。しかし、その心の弱さや、降りかかる災難・困難を乗り越えていくことで、他人の痛みを分かち合い、幸せに生きる世界を作ろうと全力で戦っていく所が、この作品の魅力だと思います。
ヒロインのエレは健気さと純真さを持ち合わせた「姫」ですが、決して守られるだけの、都合がいいだけのキャラクターではありません。年ごろの女性としても悩み、時には自分の中にある闇や悩みとも真摯に向き合っていく姿は、強く、気高く、それでいて親しみの持てる素敵なキャラクターです。
ヒーローたるインシオンとの甘やかで真っ直ぐな恋の行方も、丁寧につづられています。

異国情緒あふれる描写の中には、現代の読者たる私たちが「おや、これは……」と思うような、親しみのあるものもあり、それが世界観の広がりを一層際立たせています。ただの「異世界ファンタジー」でない辺りに、作者さんの度量と工夫が見られます。

真っ直ぐで優しく、ひとの気持ちを信じている、そんな熱い物語が読みたい方、素直な姫とクールなヒーローが恋に落ちていく様を楽しみたい方にお勧めしたい一作です。

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