バトルシーンをバトルシーンだけで勝負できる傑作

小説における「戦い」というのはアニメや漫画のそれとちがって、視覚に訴えることは難しいので、どうしても内容で勝負ということになる。
そのため、多くのバトル小説、アクション小説では、この問題は戦う人間の背景で生まれるドラマで生まれた伏線の回収として解決を試みられることが多い。「もう許さん!」とか「貴様はあの時の!」という形で描かれるアレである。言い方を変えれば、そういう方法をとらないと小説という媒体では戦いというのはなかなか盛り上げにくいものである。

鳳雛の騎士も、上記のような方針でバトルシーンは盛り上げられている。しかしこの小説が他と違うところは、加えてチャンバラの微妙な機微を懇切丁寧に書いているところだ。シーンを切り出して読んでいても圧倒されるほどの濃密な剣戟の音が聞こえてくる迫力がある。何発もガキンガキンと打ち合ったり苦戦してから必殺の奥義で逆転という、陳腐なファンタジー小説の描写ではない。ここがどういうところか、相手はどういう形で襲ってきたか、自身はどういう状況にあるか、一撃をどう受けたか、どう返すか、そうした描写が巧みであり、さらには何を考え、その意図がどのような結果に至ったかということも含まれている。バトル好き垂涎の作品だ。

魔法も魔物も出てこないが、それ無しでも楽しめるパワーある小説だ。主人公の誠実な性格もかっこいいし、ヒロイン達も個性的でかわいらしい。この痛快なアクションの良さは、ぜひ多くの方に知って欲しいところである。

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