文字だからこそ心の染み渡る世界観

物語はとても良く練られていて、読後感は切なく祈る気持ちにさせられます。
伏線の回収が始まるあたりから、悲しい物語が見えてしまうのですが、それでも「どうか想像どおりにならないでくれ」と祈りながら一気に最後まで読んでしまいました。
他の方がレビューなさっているように、文章の表現力が繊細なのは間違いないです。けれども、それがビジュアルとして成立するかというと、おそらくそうではないと私は思います。
宝石、瞳、髪、肌の色。そして匂い。文字だからこそ、巧みに心理描写やアンビエントとして機能し、読者の心の中であくまで想像としてビジュアライズされる。それがすごくうまいし、美しい世界へ引きずり込まれていきます。
一方、セリフはストレートな表現が多いです。それが物語にテンポの良さと悲劇の中のカタルシスをもたらしています。それでいて、非常に示唆に富んだ言葉が多く、作者の知識の深さと広さを感じます。

素晴らしい作品でした。

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