登場人物、シチュエーションともに(いい意味で)単純で、このテーマを語るのに必要な要素が端的に用意されている。
神、ヒロイン、葛藤、相棒。
スピード感も丁度よい。テーマを語るのに必要なご都合で進み、これまたいい意味でラノベ感があるのだ。だからテーマが深いのに読みやすい。
作風は違えど総じて星新一を匂わせる。
テーマも「人間性への批評」ってのは星新一が好きだった展開の一つ(と思う)。
「人を助ける動機はなに?」は、割とメジャーなテーマで、それこそ週刊少年ジャンプには頻出と言ってもいい。
でも今までこういう切り口はどこを見回してもなかったんじゃないかという、話の中核となる「システム」。
敢えていうと銀河鉄道999はこれに当たるわけだけど、本当に端的にそれを凝縮したシステムになってて、舌を巻く。
物語としてはバッドエンドってことになるのかもしれないが、しかし、もしありきたりな(ハリウッドアクション的な)結末であったら、それこそ弟くんは浮かばれないし、主人公二人も茨の道で、読後感はモヤモヤしたものになるだろう。
そう、むしろこの顛末であればこそ「その後」を想像したときに救いがあるのだ。
読者が、その後を無数に楽しみ、あるいは悩み、考えさせられる、とてもいい作品でした。
近年ラノベ業界を席巻している悪役令嬢もの、追放もの。
それらは不条理な待遇からチート能力で成り上がり、それまで虐げてきた人たちを見返す、といった物が多い印象がある。
多かれ少なかれ、こういった作品の主人公はこう言いたいのである。「どうしてこんなに助けてやってるのに、見返りをくれないんだ? 俺みたいに有能なやつは厚遇され、両手に花を引っ提げて生活するべきだろう」と。
本作はそんなラノベの現状に一石を投じている。
この作品の主人公は一撃でピーター・アーツを屠れる肉体を持つわけでもないし、フェルマーの最終定理を片手間に証明できる頭脳があるわけでもない。
そう、無力なのである。
でも、必死に周りの人を守ろうとする。
そして、善意の見返りを求めない。
主人公たちは人間レベルに一切の興味を示さず、自分が人のためになせることを淡々とこなすのである。
その精神の強さ、高潔さは誰もが持ち合わせているものではなく、だからこそ本作は読者を惹きつけるのだと思う。
カクヨムが誇る至高の逸品、ぜひご堪能ください。
PS 作者さん、書籍化おめでとうございます!!(˃̶͈̀△˂̶͈́)
善と偽善どちらによる行動なのかは本人にしか分からない。
いや、本人でも分からないかもしれない。
それでも「仕方なく」とか「強要されてする」というものではないと思う。
以前、困ってる人を助けてその人を見送った人が自分のしたことに対して「馬鹿らしい」と言っていたことがあった。
それ以来、人助けってなに?いい行いってなに?と思うようになった。
この物語は、そのことの答えはなくても深く考えさせてくれた。
文がグダグダになっている気もしますが…伝えたいことは、
主人公の思いや表現の仕方が細やかで繊細で綺麗
「善」「偽善」とは何かということがぶれずに軸となっていること
物語に気づいたら引き込まれて最後まで離さないということ
が本当にすごいです
終盤あたりから感動と切なさで涙が止まりませんでした。
突然、神様が現れ、人間の善行に点数をつけ始めた世界。例外は一切なし。
・善行は行為によってよみ判断する。動機は関係ない。
・死んだ時に点数がたまっていれば天国へ。点数が足りなければ地獄へ
善とは何かを問いかけるエピソードが、これでもか!、というぐらい繰り出され、読者の脳を刺激します。
公平な神様の言うことにも悶々とさせられ、例外なく公平に扱うことも、はたして、いいことなのだろうか?、と考えさせられます。
読み始めたら止まらなくなり、一気に読んでしまいました。
2016年に書かれた作品ですが、今日はじめて出会うことができ、カクヨムには、まだまだ出会っていない面白い作品が、たくさんあるなと、改めて思いました。
ある日神様が現れて、人々は全ての行いに点数を付けられるようになった。
善行を働けば、加点を。
悪行を犯せば、減点を。
現世で貯めたその点数により、死後の行き先が決まる。天国か地獄か。
そんな世界になった。当たり前に、誰もが率先して善行を働いた。そしてこの世は、平和になりましたとさ。
めでたしめでたし。。
で終わらないのがこの物語!!
平和な世界でも、人は悩む。苦しんで、答えを求める。そして気付くんだ。この世界は、少しだけおかしいって。。
間違ってなんかいない。でも、納得がいかない。だから、悩んで、悩んで、悩み抜く。それでも、答えなんて得られるのだろうか。
えっ? 何言ってるか分からない?
じゃあ読んで見れば良い。きっとあなたなりの答えが見つかるか、僕と同じ様に、読み終わった後も悩み続けるだろう。
ああ、面白かった!!
ちなみに、本当はお星様三つ付けたかったんだけど、これは僕の読者としてのワガママで、二つにしました。
なんというか、きっと作者様は意図して物語の展開をスピーディにしていらっしゃると思うのですが、僕はもう少しゆっくりと、なんなら後五万字でも10万字でも、ゆっくりと読みたかったからです。
つまりそれぐらい面白かったから、もっと主人公と一緒に悩みたかったと思ったので、すなわち読者のワガママで、星二つです。
読ませて頂きまして、本当にありがとうございました。
いや、やっぱり星三つにしときます。意地張ってすみません。だってもっと読みたかったんだもんっ!!
無思考な「形式主義」が蔓延する昨今、その功罪を効果的に切りとるには「偽善」はまさにうってつけの素材。
そこに着目したこの作者の、センスの良さを感じます。
《天上界の事情》《システム》《補正》とよく練られた設定を用い、《システム》に翻弄される人々の姿を通して、問題点をあぶり出し、丁寧に展開していきます。
しかし、ご安心を。
テーマ性の強い素材を扱いながらも、話の展開も会話の掛けあいも自然で上手。会話で引きがちな作品をよく見かけますが、本作はストレスなく読み進められます (*^^*)
時には立ち止まり、我が身を振り返ってみるのもいいのではないでしょうか。
『人間レベル』という神が作ったシステム。その設定がほんとによく出来ていて、物語が伝えようとしているテーマととても相性がいい。
一話一話が本当に考えさせられる内容。
善とは何か、偽善とは? 物語を通して一切の無駄もぶれもなく、物語としても常に高いレベルで、一つのテーマを読者に投げかけてくる。
文章も読みやすいし、構成もキャラそれぞれが抱えた問題や価値観も、とても練りこまれて考えられた、素晴らしい作品だと思いました。
なんでしょうね、この星の数は。私が星を入れて50。。。
少なすぎやしませんか?
と個人的には思うのですが、流行りじゃないのか読まれていないのか、私の感覚がずれているのか。
もう一つの「パンダ」もめちゃめちゃ面白いのになあ。
レビュー本文、遅くなって申し訳ありません。
プロローグから『人間レベル』という作品の設定を思い切り読者に提示してきます。会話形式にすることでかなり読みやすく、物語の中に入り込みやすくなっています。
『人間レベル』というものが世界に蔓延しているという架空の世界で展開されるこの物語は、一人の男子高校生が主人公です。
その主人公は『人間レベル』に不信感を持っていて、『人間レベル』に反対する行動ばかりをとっていた。しかし、様々な出来事を通じ――。と、まあ、こんな感じです。
設定、展開など、どれをとっても一級品の作品です。こういう作品はどうなったのか続きが気になるぐらいが良いのでしょう。
個人的な感想を言わせてもらうのならば、終わり方が『ソーシャル・レアリティ』のデジャブ感を感じたり感じなかったり。同じ作者ですからね。善とは何か。偽善と善は何が違うのか。感謝しなくなるとはどういうことなのか。しっかりとしたテーマがある作品で、私もこういうのが書きたいなあ、と読みながら自分のふがいなさすら感じさせられました。★3、ほとんどつけないんですけどね。これで四作目ですよ。まさか二回もつけるはめになるとは思いませんでした。
紛れもなく良作です。
是非ご一読を。
元来、人間が己の生を全うする事に対してひたむきになれるのは、
いつかは誰しもに死が訪れ、全てが終わる時が来るという、目を逸らしがちな事実が前提にあるように思います。
自分に与えられた時間は有限であり、いつかは全てが失われる時が来る。
だからこそ多くの人は、自分が生きた意味を求めるのではないでしょうか。
生きた意味の形は人それぞれあります。
自分の子供のために、より多くの富を遺そうとする人。
可能な限りの享楽を味わい、面白おかしく時を過ごそうとする人。
何らかの偉業を成し遂げ、歴史に名を刻もうとする人。
この世界は、一人の人間が全てを知るにはあまりに広い。
なればこそ、人は多様な文化の中から、自分にとって卑近なものに関心を寄せ、自らの生の時間を割く。
人々が、さまざまな価値観で各々の日々を精一杯生きているのは、そういった背景によるものです。
価値観が違うゆえに「他人の心の内側はわからない」のであり、
だからこそ、人がなす善行を、善であると盲目的に信じられるという部分もあるものです。
ですが、それが全て覆されたらどうなるか?
誰もが同じ価値観の下、生を終える瞬間に備える世界。
エサを奪い合って栄養を蓄え、羽化の時を待つ幼虫の群れと、何が違うと言うのでしょう。
本作は、人が人である所以を問いかける、メッセージ性の強い良作です。