働きすぎを少し自覚したときに読んで、それでもやってくる明日を笑い飛ばす

東京の、中堅の広告代理店の若手社員の日常。広告代理店ってのはフレーバーであって、まあ普通の会社員の日常。

くそったれな現実と、ほんの少しの優しさ。
後者を戯言ととるか、リアルととるか。その選択権は誰に委ねられているのか。


リアリティは細部にあって、まさにこの小説は細部に神を宿している。
同期からの本当につまらない用事の電話。考えなしに放たれた一言がリアリティ。既視感と言ってもいい。状況も立場も時も場所も違うのに、このセリフ、僕も聞いたことがある。
主人公の上司たる2人もそうだ。この人たち、僕の会社にもいた。
一度も見たことないけど確かに存在する“マクドナルドの女子高生”のよう。

「純文学」とタグ付けされて、読みにくいのかといえばそうではない。最近見た映画に例えるなら、スピルバーグ監督の「ペンタゴン・ペーパーズ」。
物語の柱である「明日の朝までに」という時間制限と、東京のゴチャゴチャ感が文章にスピードを与えて一気に最後まで読み切ってしまう。

そして、クライマックスからエピローグに至るまでは、まるでイギリスの名ドラマ「名探偵ポワロ」のよう。最後のピースをはめるのに余計な説明も謎解きもいらない。

ホッとした気持ちと小さな勇気を分けてもらえる読後感でした。

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