ある日、フユキという女性が透明になった。
そんな不思議な『事実』が物語の窓になって、透明になっちゃった女性の心のうちや、そのとき彼女を取りまいている人々のことが語られていく、群像劇的作品です。
物語に刺激的な展開やオチはなく、淡々と進んでいきます。
とくに登場人物の心の中の動きを丹念に追いかけていて、非常にあざやかだと感じました。それも、記憶に残って数年後数十年後もハッキリ思い出せるような激しい感情ではなくて、もしかしたら過去に自分もそういうことを感じていたかもしれないけれど、今はすっかり忘れてしまったような、名前もつけなかったような感情のことです。
世界の中に、『人がひとり透明人間になってしまう』というかすかな『違和感』が生まれて、人々がその違和感を乗りこえるときに立つわずかな波のような感情をひろい集めていくような小説です。
落ちついた文芸作品をお探しの方におすすめです。