ドラクエという中世ヨーロッパ風世界が舞台のゲームがありますが
この作品も例に漏れず『異世界転生モノ』という、ドラクエ的な世界が舞台となっております。
そしてああいったゲームのお約束として
新しい街を訪れると、入り口付近の人が「ここは◯◯の街です」なんて教えてくれるというのがあり。
他の多くの異世界転生小説なども、だいたいそんな簡単な世界観です。
しかしこの作品の場合「ここは◯◯の街です」の代わりに。
『てめえ何者だ、この野郎!!』
って感じになります。命の危険も伴います。
一番身に付けなければならないのは、魔法でも伝説の武具でもなく、薄汚い謎のよそ者として扱われる状況での立ち振舞です。
おそらく現代日本から転生した程度の普通の中高生では、いきなり可哀想な結果となるでしょう。
刺すか刺されるか、緊張感があって非常に読み応えのある作品です。
あと、更新を待ちきれなくて、かと言って代わりになる作品も見つからず、禁断症状が出ました。
悶々としたあげく結局自分でも小説を書くことになったので、そういうパワーも出ていると思います。
チートやご都合主義はほぼ無し。そんなもんは不要とばかりに圧倒的な描写とストーリーで心を掴んでくる。
この異世界は過酷だ。死が身近にあって、みんな生きることに必死で、簡単に命が失われていく。
モンスターとの闘い。人間との闘い。
そんな世界に放り込まれた主人公は生き残る為に考えて、考えて、強くなっていく。
異世界の価値観に適応しながら、それでも染まり切らない主人公の心の強さ。
不要な甘さを少しずつ削ぎ落として、それでも葛藤を抱えて、折り合いをつけながら進んでいく。
この物語は、単なるサバイバルではない。異世界で主人公が、主人公らしく生きていく物語のように思う。
苦しくて、傷ついて、人の温もりに飢えて、裏切られて、学んで、警戒して、生き残るために人を殺めて、それでも、人を信じることをやめない。
生き残ることを優先的に考えているが、時折、それ以上に譲れないものが垣間見える。
その部分がこの主人公の根っこなんじゃないかなぁ、そんなふうに思える。
極限の状態でも、葛藤を抱えながら、悩みながら生きていく。
人として生きることをやめない。
この主人公はカッコいいのだ。
主人公の葛藤の描写があるたびに心が痛むが、決して重すぎることはなく、読み進めるごとに深みを増していく。
迫り来るような戦闘描写には、思わず手に汗握って応援してしまう。
魅力あるキャラクター達が、物語の中で確かに息づいている。
数ある異世界転生ものの中でも屈指の名作。
この小説はもっと皆んなに読まれるべき。そう思ってこのレビューを書きました。
いつも更新楽しみにしています。