第50話 叶和 --side--

瑤子さんの初七日が終わった日、兄貴が部屋に入ってくるなり、オレを殴った。



「ふざけんな!」


「何なんだよ? いきなり殴るとか意味がわかんねーんだけど!」


「わからない? だったらわかるまで殴ってやるよ!」



一方的に殴られ続ける理由が見つからず、オレも殴り返した。


その物音で、1階にいる両親までやってきて、兄貴をとめようとした。



「何やってるんだ! 圭一!」



親父の声に、兄貴が言った。



「瑤子を殺したのはこいつなんだよ!」


「圭一、何を言ってるんだ?」


「これ! 瑤子の荷物片づけてたら出て来たんだ!」



兄貴がぐしゃぐしゃになった中絶同意書をオレの目の前につきつけた。



あの時の……



「瑤子のお腹の中の子の相手はお前だったのか!」


「それは――」


「瑤子の走り書き!」



投げつけられたノートの端に、乱れた字で書かれていた。



『どうして 言いなりになんか 自分が許せない どうして 拒否しなかったの 信じた私が愚かだった』



必死で兄貴を抑え込む親父の前で、兄貴は目を真っ赤にして言った。



「お前が瑤子を無理やり――」



それっきり兄貴は崩れ落ちた。




『何で言いなりになんかなったんですか! どうして拒否しなかったんですか!』



そう言って瑤子さんを責めたのはオレだ。


それが彼女を追い詰めた。



やっぱり瑤子さんは自殺だったんだ。



瑤子さんを殺したのはオレだ。



兄貴は俺にいろんなものを与えてくれた。


なのに俺は兄貴の大切な物を奪ってしまった。




「相手はオレじゃない」と言えなくなった。

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