第9話

遅い時間にお風呂へ入ったせいなのか、見知らぬ人間が同じ家の中にいるせいなのか……眠れない。


多分、じゃなくてあきらかに後者。


ドアを開けようとしたら気がつくように、寝室のドアの前にいろんな物を置いておいたから、自分が出る時もこれらを全部どけないといけない。



どうして夜中にわたしは荷物をあちこち移動させるような目にあってるんだろう……



ようやく積み重ねていた物をどけて、寝室のドアをそっと開けると、廊下の冷たい空気が部屋の中に入って来た。

暖かい空気が逃げないよう、すぐにドアを閉めた。


廊下とリビングを隔てているドアを開けると、今度は暖かい空気をふわっと感じた。


間接照明が部屋をぼんやりと照らしている。


ソファの上に寝ているはずの叶和の姿がなくて、慌てて近づくと、床の上で寝ているのを見つけた。


大きな体を丸めて、毛布に包まっている。

寝息すら聞こえない。



生きてる?



息をしているか確認するために近づくと、叶和の頬に涙の跡が見てとれた。



この涙の理由は何?



明日には関係のなくなる相手なんだから、考えるなんて無駄。


そう思っているのに洗面所へ行き、叶和がゴミ箱に捨てたスマホを拾った。

そして、それを忘れないように明日会社へ持って行くカバンの中に入れた。



リビングでは時計の秒針を刻む音だけが聞こえる。

叶和は静かに、まるで自分の存在を消すかのように眠っていた。

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