第10話

朝起きて、わたしが朝食の用意を始めると、その音で目を覚ました叶和は、きれいに毛布を畳んでソファの端に置いた。

きちんとしてるんだか、いい加減なんだか、わからない。



「おはよう」



声をかけると、真っすぐとこちらへ向かって来た。


そのままキッチンまで来ると、卵を焼いているわたしを後ろから抱きしめてくる。



「ちょっと、やめて」



火を使ってるし、フライパン持ってるし。

そうじゃなくてもだけど!


そのまま耳を甘噛みされて「ひゃっ」という声が出てしまった。



「やめて!」


「なんで?」



やめてはくれたけど、また「なんで」ってセリフ。

こっちのセリフだってば。

やっぱり絶対危ないやつ。



「イスに座って待ってて」


「……うん」



テーブルの上に、サラダとソーセージに卵焼き、トースト、コーヒー、それぞれ2人分用意して並べた。


好き嫌いを聞かなかったなぁ、と思ったけれど、そんな気を使う必要ないよね?

もう二度と会うことはないんだから。



「わたしが家を出る時に、一緒に出てもらうからね」


「……うん」



そんな悲しそうな顔見せてもだめ。



「コーヒー飲める?」


「飲める」




昨日初めて会った男と向かい合って朝食を食べるなんて、わたしの人生には存在しないはずのタスクだった。

しかもゴミ捨て場で拾った男。


正面から改めて見ると、切れ長の目に鼻筋も通っていて、整った顔をしているのがわかる。背だって高いし、モデルとかできそう。髪の色とか一見派手なんだけど、ピアスは開けていない。



「ねぇ、仕事はしてるの?」


「してる」


「何してるの?」


「バイト」



それじゃあわかんないって。

でも、まぁ、知ったところで追い出すことには変わらないんだから関係ないか……



その後は2人して、もくもくと朝食を口に運んだ。

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