第11話

一緒にマンションを出て駅前まで行った。


家を出る時、何か羽織れる物がないかと探したけれど、わたしのではサイズが合わなくて着られる物がなかった。

だから唯一マシだった茶色がベースになっているタータンチェックのマフラーを首に巻いてあげた。


昨日の雪は積もってはいなかったけれど、周りはみんなコートやダウンを着てるから、パーカーとマフラーだけの叶和は寒そうに見えるし、実際寒いに違いない。



「わたしは電車だからこっちだけど」


「オレは、バスに乗る」


「そう……じゃあね」


「うん」



もう会うこともない。


叶和に背を向けて少し歩いてから、くるりと向きを変えて、叶和を追いかけた。



「叶和!」



振り向いた叶和に、自分のしていたストールを巻いた。

カーキのパーカーと茶系のマフラーにピンクのストール……合わない。

でも、ないよりは暖かいよね?



「ピンクは恥ずかしいかもしれないけど、我慢して」


「役に立たなかったのに……」



そう言って、微かな笑みを見せると、叶和はバス停の方へ向かって行った。



「役に立たなかった」ってどういう意味?

ぜんっぜん、理解不能。



通勤や通学の人ごみに紛れながらJRの改札をぬけ、ホームへ向かっている途中で足を止めた。

わたしが急に立ち止まったから、後ろから来た男性がぶつかりそうになったのか、「あっぶね」とつぶやいたのが聞こえた。


叶和の言葉の意味……


もう一度、叶和と別れた場所まで走って戻った。

でもバスは行ってしまった後で、バス停には誰も立っていなかった。

周りを探したけれど、叶和の姿はどこにもない。



わたしがあげたのは、コンビニのサンドイッチにプリンとホットミルク。それに簡単な朝食。

好き嫌いすら聞かなかった。

叶和はコーヒーを「飲める」と言ったけれど、飲んでる時の様子から苦手なんだとわかった。

でも、わたしは何もしてあげなかった。

ミルクをあげればよかった。スティックのカフェオレだってあったのに……



それなのに……


叶和は……


自分の体でその対価を支払おうとしてたんだ……



「どんな生き方してきたのよぉ……」



いない相手に向かって言葉が出ていた。


もし、もう一度会ったとしても、自分がどうしたいのかすらわかっていないのに、どうして追いかけたりしたのか……


決して、そんなつもりで家に泊めたわけじゃない。


だからくやしくて仕方がなかった。


腹が立った。


そんな生き方……認めたくない。

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