第12話 拾ったスマホ
心の中はモヤモヤでいっぱいなのに、会社へ着くと一番に向かったのは、システム部にいる友人の尾崎亜弥美の席。
「おはよう」
「おはよう。どしたの?」
「これなんだけど……」
昨日、叶和がゴミ箱に捨てたスマホを見せた。
「スマホ?」
「洗濯して乾燥機までかけちゃったせいで、電源入らないんだけど、中のデータだけでも救えないかなぁ?」
「あっ」
「あ?」
「乾燥機かぁ……データだけでいいならいけると思うよ」
後ろから聞こえた声に振り向くと、上椙さんが立っていた。
「おっ、おはようございます」
「おはよう。昨日は遅くまでお疲れさまでした。お陰で朝から問題なく仕事が出来そうだよ」
「それは良かったです」
「お礼と言っては何だけど、それ、やろうか?」
「え?」
「僕が見たらまずいやつ?」
「いえ。そもそもこれはわたしのじゃないんです。わたしが洗濯乾燥機にかけたことで壊してしまって。それを持ち主がもういらないって捨てたから拾ってきたんです」
「訳ありだね。どうする?」
「沙也加、わたしがやるより早くて確かだと思うよ」
「こんな個人的なことお願いしてもいいんでしょうか?」
「いいよ。昨日の件でこれからビルの管理会社と話し合いがあるんだけど、そのあとは時間があるから」
亜弥美の言う通り、上椙さんに頼めば間違いない。
「お願いします」
「了解」
「ありがとうございます」
上椙さんの姿が見えなくなってから、亜弥美に言った。
「緊張した」
「そう?」
「会社のトップよりもっと上の人だよ?」
「気にしすぎ。この間大きい仕事ひとつ終わったから暇なんだよ。最近よくうろうろしてるの見るもん。」
「社員の仕事チェックしてるとか?」
「ないない。すごく社員のこと信頼してくれてて、やることやってたら大丈夫の人だよ」
「亜弥美は仕事で絡むこと多いかもしれないけど、わたしなんかめったに会わない雲の上の人だよ」
「雲の上に人というより、お星さま」
株式会社POLARISは大きな会社ではないけれど、知っている人は知っている(知らない人は全く知らない)、エンタテインメントコンテンツの企画・開発・販売会社で、わたしはそこで人事総務兼経理その他いろいろな事務全般を担当している。
ここでは、役職付もそうじゃない人もみんな「さん」付けで呼ぶことになっていて、入社当初は、「自由な社風」アピールかと思っていた。
でも実際に働き始めると、単にCEOがCEOと呼ばれたくなくて、社長が社長と呼ばれるのが恥ずかしい、という理由だと知った。
まだ若いのにこの会社の設立者で現在はCEOの上椙達也さんは、わたしのような一般人から見たら、雲の上の人。
社名のPOLARISが北極星という意味だから、亜弥美は「お星さま」に例えて呼んでいる。
そんな人が叶和のスマホのデータを取り出してくれるというのだから、きっと大丈夫に違いない。
どこに行けば本人に渡せるのかわからないデータだけれど……
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