第13話
あと5分で定時、というところで後ろから声をかけられた。
「もう終わる?」
振り向くと上椙さんが立っている。
「お、終わります。もうすぐ終わります」
「じゃあ、カフェスペースで待ってるから、帰りに寄って」
「はい」
やりかけの旅費精算を急いでやって、定時を10分過ぎたところで、PCの電源を落として急いでカフェスペースへ行った。
上椙さんは窓の外を見ながら立っていた。
「お待たせしました」
「帰るところをごめんね。早く渡した方がいいかと思って。はい」
目の前にスマホを出された。
「あの?」
「試しにバラしてパーツ変えたら復活したから」
「ありがとうございます!」
「電源入るか確認した時、アプリもちゃんと起動するか確かめたくて勝手に中を見させてもらったんだけど……このスマホの持ち主、知り合いなんだよね?」
「……知り合い……です」
「こんなに空っぽのスマホって初めて見た」
「空っぽ、ですか……」
「電話帳の登録が数件と写真が1枚しかなかった。他のデータは消えたのかと思ったんだけど、最初からそれだけしかなかったみたい」
『大事なものなんてもうないから』
叶和の言葉が脳裏に浮かんだ。
「持ち主の人、大切にしてあげて。じゃあ、お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
POLARISはゲーム会社でありながら、この間は大学病院と連携して脳波を読み取ってパソコンを操作させるという技術協力をしたばかりで、それらはほとんどが上椙さんの力。
経営より技術畑にいたいからと社長を譲り渡してCEOの立場になっても、システム部と一緒に開発に携わっている。
そんなすごい人に個人的なことをやってもらってしまった……
もう姿はなかったけれど、もう一度頭を下げた。
会社を出てから、「ごめんなさい」と心の中で謝って、叶和のスマホの電源を入れると、最初真っ黒だった画面にゆっくりとメーカーのロゴが表示され、その後しばらくして待受画面が表示された。
スマホにはロックがかかっていなかった。
何も言ってなかったから、上椙さんがロックを解除したわけでもなさそう。
待受画面を見ながら、ますます叶和のことがわからなくなった。
どうしてこんな写真を待受にしてるの?
きっと、登録されている1枚だけの写真というのが、待受になっているこの写真なんだ。
叶和、あなたは一体何者?
叶和のスマホの待受は、若い女の人が年配の男性に引っぱられるようにホテルへ入って行く画像だった。
そして、画面には電話のアイコン以外何もなかった。
アプリの入っていない、こんな空っぽのスマホは見たことがない。
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