第14話 再会

クリスマスをいつもと変わらずひとりで過ごし、会社が年末年始の休暇に入ってから、母のお墓参りに行った。

お寺の隅っこにある小さなお墓に母は眠っている。

父の方は、お墓の場所すら教えてもらっていないから、いつも母のお墓だけ。



年が明けて、仕事も通常通り始まった最初の週末、亜弥美と夕食を食べに行った後、「行きたいところがあるから付き合ってよ!」と言われ、繁華街から1本道を外れた静かな通りに連れて行かれた。

スマホの地図を見ながら歩いて行く亜弥美の後をついて行ったけれど、明かりも人通りもほとんどなくなって、とても店があるようには思えない。



「あった! FILOU」


「ここ? 本当にお店?」


「知る人ぞ知る名店」



そこは、ドアに表札くらいの小さな「FILOU」と書かれた銅のプレートがあるだけのBarだった。



「バーテンダーがみんなイケメンらしいの」


「『名店』って、そういうこと? 誰情報?」


「営業の万波さん。あの人、新しいお店を開拓するのが好きで、『M's Favorite』っていうサイトでいろんなお店を紹介してるの。会社の人が結構自分のサイトを運営してるのは知ってるでしょ?」


「それは何となく知ってるけど、誰がどんなサイトを運営してるかまでは……」


「上椙さんも自作のアプリとかダウンロードできるサイトを公開してるよ? 『出会いをカウントするアプリ』っていうのがあって、それに登録すると、設定した記念日が来たらプッシュ通知で教えてくれるの。仕事と同じようなこと趣味でやってるって、みんな変だよねぇ」



亜弥美がドアを開けると、薄暗い店内は揺らめいた照明のせいか、まるで水槽の中みたいだった。


空いている席はカウンターだけで、 2つあるテーブル席はカップルで埋まっていた。

カウンター席にいるのは女性客だけで、亜弥美曰く、「イケメンのバーテンダー」と楽しそうに会話をしている。



「万波さんのイチオシは、ほら、あの銀髪の人」



バーテンダーは2人いて、銀髪の人はこちらに背を向けて20代くらいの女性客と話をしていた。



「27らしいんだけど、年下に見えちゃうくらい童顔なとこが可愛いんだって」


「ふうん」


「少しは興味持ったらぁ? 彼氏と別れてもう3年?4年だっけ? そろそろ次の恋探したっていい頃じゃない?」


「そうだねー」



最後に付き合った人とあまりいい別れ方をしなかったから、それ以来、誰かと一緒に過ごしたいとかそんなふうに思わなくなっていた。

でも、それをうまく説明できない。



「せめて推しでも見つけた方がいいよ! この間テレビで言ってたもん。外へ向けるパワーはストレスを軽減させるんだって」


「そんなの初めて聞くけど?」


「彼がいても目の保養は大事ってことだよ。万波さんの言うイケメンってどんな感じかなぁ。流石に写真は載っていなかったから、実物見るの楽しみにしてたんだよね」



イスに座ると、ちょうど銀髪の方のバーテンダーがこちらを向いた。


その顔を見て驚いた。



「27?」



思わず口に出していた。


そこにいたのは、間違いなく叶和だった。

わたしには「24歳」と言ってたけど?


向こうもわたしに気がついたはずなのに、何食わぬ顔で微笑まれた。


亜弥美が「おすすめは何ですか?」といった会話をしている間、カウンターを挟んで反対側にいる「27歳」の叶和から目が離せなかった。


やがて亜弥美の注文を聞き終えた彼は、わたしの方を向いて言った。



「お客様にはグランド・スラムをお持ちしますね」


「グランド・スラム?」


「調べて」



小さな声でそう言うと、叶和はわたしたちの前を離れた。



「万波さん情報によると、彼の名前は叶和くん。本当に童顔だったね」


「そうだね」


「もう1人の人は柊ニくんって名前で、同じ27らしいけど、彼は年相応って感じかな」


「ちょっと、ごめん」



席を立ち、化粧室へ行ってから「グランド・スラム」を検索した。



スウェディッシュ・パンチがベースのカクテル。

黒糖が焦げたような香ばしい甘味を感じられるのが特徴。

カクテル言葉は「二人だけの秘密」。



秘密?

どこからどこまで?

何が秘密?

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