第15話

2人で2杯づつカクテルを飲んで店を出た後、亜弥美と話しながら地下鉄の駅へ向かった。

遅い時間ではなかったから、終電までは余裕で間に合う。



「亜弥美、さっきのバーテンダーの人なんだけど――」


「どっちもかっこ良かったねぇ。でも、わたし的には叶和くんより柊ニくんかなぁ。でも、あくまで観賞用だね。あれは絶対、何人も遊んでる女がいるわ」


「そうだね」


「叶和くんって、客商売なのに無口って変わってる。話してるのほとんど客で、微笑んでるだけで許されるってすごいわ」


「そうだよね」


「客が奢るって言っても断ってたけど、それでムッとされないのもやっぱり顔がいいからなのかな?」


「そうかもね」


「でもあれは、危なそうだから近づかない方がいいタイプ。見る分にはいいけど」



『危ない』は、近づいたらダメというサイン。よく知ってる。

守らなければいけない言葉。

守らないと、悪いことが起きる。



「沙也加、聞いてる? さっきからどうでもよさそうだけど、そんなに興味なし?」


「ごめん、そんなことないよ。ちょっと酔ったかも」


「まぁ、沙也加はアイドルとかそういうの興味ない人だもんねー」



何となく叶和のことが言えなくなって、結局だまりこんだ。



「じゃあ、わたしこっちだから。また明日」


「おやすみ」



地下鉄の入り口で亜弥美と別れ、一旦逆方向へ歩き始めたものの、すぐに来た道を戻り、再びあのBarへ向かった。


もしまた会うことがあったらすぐに返せるように、叶和のスマホをずっとカバンに入れて持ち歩いていた。


返すなら今しかない。

それで金輪際二度と会わない。




もう一度店の前に立った時、出てきた女性とぶつかりそうになった。

黒いワンピースを着た女性。



「ごめんなさい」


「こちらこそ、ごめんなさい」



女性は店の前に待たせていたらしい車に乗ると去って行った。


女性の乗った車が立ち去るのを見た後、ドアを開けようとした時、お店のすぐ横にある勝手口から出てきた叶和が声をかけてきた。

両手には空になった瓶の入っているケースを抱えている。



「オレに会いに戻った?」



叶和が笑顔を見せた。

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