第16話

「さっき、渡し損ねたから」



カバンから出したスマホを見せた。



「わたしのせいでごめんなさい。直してある」



叶和はスマホをじっと見ているだけだった。



「ちゃんと起動するか電源を入れた時、勝手に中を見てしまって……ごめんなさい」



何か、言ってよ。



「やっぱり……」



やっぱり?



持っていた空き瓶の入ったケースをその場に置くと、叶和はわたしのところへやってきて、スマホを受け取った。

そして電源ボタンを押して、スマホが起動するのを見て、泣きそうな顔をした。



スマホが戻って来たことが嬉しくないの?



「ねぇ、27って言ってたけど、わたしには24って言ったよね? どっちが本当?」



顔をあげた叶和は無表情だった。



「どっちも」



また、理解できない。


ほんの少しだけ、寂しい気がした。

何を期待していたのかな……「ありがとう」って喜んでくれる顔?



「……じゃあ、さよなら」



叶和に背を向けた瞬間、手首をひっぱられたかと思うと、引き寄せられ――



それはあまりにも一瞬のこと。

片方の手首は掴まれていたし、もう片方はカバンを持っていたから……



不可抗力。



お店の目の前で、キスをされた。


叶和の力は思った以上に強くて、逃げることもできず、押し入ってくるものを受け入れることになった。


それは長い時間だったのか、ほんの少しの間だったのか、お店のドアが開いて、中から出て来た若い女の子の声でようやく中断された。



「叶和? 何やってんの?」



冷ややかな声。

その声に、叶和がわたしの顔を自分の胸に押し付けた。



「その女、誰?」


「知らないひと


「ふうん。叶和は私の目の前で知らない女とそんなことするんだ……」



叶和がわたしの耳元で「逃げて」と小さく囁いた。



逃げて?

もしかしてこの状況って、修羅場ってやつ?



叶和は、わたしを自分の後ろへ押しやるようにして掴んでいた手を離した。


後ろで女の子が叶和を責めたてているのが聞こえた。


自業自得……だよね?

わたしは……関係……ない……よね?


少しして振り向いたけれど、そこに2人の姿はなかった。

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