第17話 もう一度
スマホも返したのだから、叶和のことはもう関係ない。
あの店には二度と行かない。
自分に言い聞かせるみたいに毎日を過ごした。
あまり飲みに行ったりする方でもないし、あの辺りをうろうろすることもない。だから偶然出くわすなんてこともない。
実際、何事もなかったかのように1週間が過ぎた。
週末になって、百貨店で行われているパンフェスタに行き、気に入ったパンを買い込んだら、パンしか買わなかったのに、思っていたより大きな紙袋になって笑ってしまった。
すぐに家へ帰ってもすることがないし、読みかけの本があったことを思い出して、コーヒーでも飲みながら続きを読むつもりでカフェに立ち寄った。
窓際のカウンター席に空いているところを見つけて、パンの入った紙袋を置き、コーヒーカップののったトレイを置こうとしたところで、隣に座っていた男性が顔を上げた。
「あんたのこと覚えてる。叶和の知り合いだよな?」
そこにいたのは、あのFILOUにいたもう一人のバーテンダーだった。
名前は確か柊二。名字は知らない。
「顔を知ってる程度です」
「でも叶和と店の前でキスしてた」
忘れてしまいたかったことを……
この人にまで見られてたなんて。
「あれは、事故です」
「事故? 事件だよ」
「事件?」
「
唯可って誰?
「あの子、ヤバいツレがいて、あの後、叶和のやつフルボッコされたよ」
「すみません、意味がわからないんですけど?」
「だから、あんたが叶和とキスしたせいで、唯可がキレてヤバいやつらに叶和のこと殴らせたの。唯可の家からも追い出されて行くとこなくなって、今俺ん
「責任って……あれは無理やりで……どうしてわたしが……」
「あんたのこと庇ったから余計にやられたんだよ。ようやくましになったけど、あいつ無抵抗で殴られまくったせいでしばらく動けなかったんだから」
元はと言えば叶和のせいなわけで、殴るとか殴られるとか、そういうことには関わりたくない。
でも……わたしを庇ったせいで……って……
「庇ったってどういうこと?」
「お気に入りの玩具が自分を裏切ったことも許せないけど、相手のあんたはもっと許せないから痛い目見せるとか言ったらしい。それを、あんたの代わりに自分をやれって言ったもんだから、更に唯可を怒らせた」
「そんな……」
「だから早くそれ飲んで」
「え?」
「いいから、早く」
言いなりになる理由なんてないのに、熱いコーヒーにミルクを入れて、少しぬるくしてから急いで飲んだ。
飲み終えると「行くよ」と言われ、カウンターの上に置いていた、買ったばかりのパンの袋を人質にとられ、店を出た。
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