第8話
「その毛布をしっかりと前で掴んでてよ!」
「髪の毛……水滴が……」
「動かなくていいから、じっとしておいて! 髪はわたしが乾かすから!」
どうしてまたこんなことに……
毛布に包まっている叶和の髪の毛をドライヤーで乾かしながら聞いた。
「ねぇ、どうしてあんなとこにいたの?」
「風呂を出ようと思ったから」
「そっちじゃなくて、ゴミ捨て場のこと」
「ゴミ捨て場? あそこゴミ捨て場だったんだ。段ボールがあったから、少しは暖かいかと思って」
そうじゃない。
聞きたいのはそんなことじゃなくて。
「家はどこ?」
「追い出された」
「追い出されたって? 家賃払ってなかったとかそういうの?」
「彼氏ができたからって」
女の家から追い出されたってこと?
「彼氏ができたから」ってことは、あんたは彼氏じゃなかったってこと?
ヒモ?
……今すぐにでも捨ててしまいたい。
「あのさ」
「何?」
「オレのスマホは?」
「スマホ?」
「パーカーのポケットに入れてたんだけど」
「えっ?」
そのタイミングで聞き慣れたメロディーが……
洗濯と乾燥が終わった音。
急いで洗面所へ行って、洗濯機の蓋を開けると、見事に乾燥機にかけられたスマホがそこにあった。
さっきの、定期的に聞こえた「ガコン」という音の正体がわかった。
呆然とするわたしのすぐ真後ろから、毛布にくるまったままの叶和が手を伸ばして洗濯機の中からスマホを取った。
「電源入んない」
「ごめんなさい。弁償する。あと、データの復旧も頼んでみる」
「いいよ」
なぜか叶和は壊れたスマホを見て笑った。
「でも、大事なデータとか入ってたでしょ?」
「大事なものなんてもうないから。でも……もしかしてお金も?」
「お金?」
「ズボンのポケットに入れてた」
すぐにポケットを確認すると、お札は丸まってはいたものの、破れてもなくて使えそうだった。
いつもならこんなことしないのに……
ポケットの中確認して洗濯機に入れるのに……
叶和は洗面所を見回すとゴミ箱を見つけて、スマホをそこへ捨ててしまった。
スマホは、不燃ごみだよ……
「服乾いた?」
「うん」
「着た方がいい?」
「着て」
当たり前な質問しないで。
乾いた服を渡すと、今度は気を使ったのか、叶和はわたしの後ろで服を着た。
「追い出す?」
追い出したい……
でも、外は雪がひどくなるばかりだし、スマホも壊してしまって、出て行けとは言いにくくなってしまった。
「今晩だけ泊めるけど、明日の朝には出て行って」
「寝る時は一緒だよね?」
「一緒じゃない。エアコンつけたままでいたら寒くないから、リビングのソファで寝て」
叶和が驚いた表情を見せる。
どうしてそこに驚くの?
思考回路どうなってるの……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます