第7話

「いい? 45分よ。ゆーーーっくり体を洗って、ゆーーーーっくり湯船に浸かるの。わかった?」


「一緒に入るってこと?」


「ないから!」


「45分とか無理。ってか、その時間何?」


「服を洗濯して、乾燥が済むまでの時間」



サンドイッチとプリンを食べた叶和は、心なしか口数が増えた。

もっと食べさせたら、もっといろんなこと話す?



「オレ、裸でいいよ。どうせ脱ぐでしょ?」


「脱がないから!」


「え……着たまま……そういうのが好きなら、まぁ……」


「そうじゃないから!」


「じゃあ、沙也加はどうしたいの?」



どうしたいの?って、その質問をする意味がわかんないんだけど?

発想がすぐあっちの方へいくし!

助けた恩人をいきなり呼び捨てだし!



「どうもしたくありません。お風呂に入ってきれいになって欲しいだけです」



叶和は自分の服をクンっと匂うと、小さな声で「ごめん」と言った。



「そういう意味じゃないの。臭いとかじゃなくて、ただ、温まってきれいになって欲しいだけ」


「わかった。45分がんばる」


「頑張って」



叶和がお風呂に入ってから、彼の着ていた服を全部ドラム式の洗濯乾燥機に放り込んで、その前にしゃがんだ。


さっきまで叶和が着ていた服が、丸いガラスの向こうでぐるぐるまわっている。


なんだか仕事できない人みたい。

コピー機の前でコピーが終わるのをずっと待ってるような。

今の会社ではコピーをとることなんてほとんどないから、この例えはテレビの受け売りだけど……


家に帰ったら、ケーキの代わりのプリンを食べて、温かいお風呂にゆっくりと浸かって……そんなはずだったのに。


わたし、何やってるんだろ……

知らない男を拾ってきた挙句、お風呂に入れて、その服を洗濯している。


お風呂のすりガラス越しに映る叶和の影に目を向けた。


この季節にコートも着ないで、どうしてあんなとこにいたんだろう?

完璧に訳アリだよね?

しかも手が早い。



時折聞こえるガコンという音。



何の音だろ……



それが突然ガラっという音に変わった。



「やっぱ、45分とか無理」



無意識に声のした方を向いて――



「@;&%#%/\?!!!!!」



不覚にも初めて見たみたいな声をあげてしまった。



「どしたの?」


「ど、どしたのじゃないっ! タオル! 隠して!」


「タオルを隠す?」


「違っ!」



洗濯機の前にしゃがんでたからっ!

だから……超目の前にあんたの……が……



「どうせ見るでしょ?」


「見ない!!!」



コイツなんなの?

わざとなの?

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