第47話 叶和 --side--

瑤子さんがひとりになった時、オレは瑤子さんに余計なことを言った。



「どうして兄貴を信じられなかったんですか?」


「そう……だよね……本当に、私、どうかしてるね」


「そうですね。瑤子さんが兄貴を信じてたら、あんなバカなことせずにすんだのに。何で言いなりになんかなったんですか? どうして拒否しなかったんですか? そもそも普通はこんなバカげた手口にひっかかったりしないでしょ?」



黙っている瑤子さんに向けて思ったこと全部言葉にした。

そうしておいて、瑤子さんがホテルに男と入って行く写真をわざわざ転送した。



「それ見て自分の愚かさを反省してください」




許せなかった。


兄貴よりも上司を名乗った見知らぬ男の方を信じた瑤子さんを。


あんないい人を裏切るなんて。


その後もずっと態度に出ていたんだと思う。


その無言の非難を、瑤子さんがどんな思いで受け止めていたのかは、わからない。




瑤子さんの様子がおかしくなったのは、それから1カ月が経った頃だった。


目に見えて痩せていって、顔色も悪い。


病院へ行った方がいいんじゃないかと周りが勧めても、寝てれば治ると言ってきかなかった。



そんなある日、学校から帰宅したオレは、玄関を開けると同時に周一の泣き叫ぶ声を耳にした。


急いで家に入ると、階段の下で周一が泣いている。



「どうした? まさか階段から落ちたのか?」



いろんなものに興味を持ち始めた周一が勝手に上がらないように、階段にはベビーゲートがつけてあったけれど、それが開けっ放しになっている。


へたに動かさない方がいいと思い、救急車を呼んで、その場で瑤子さんの名前を叫んだ。



「瑤子さん! 瑤子さんいないんですか!」



何度も名前を呼んで、ようやくふらふらと瑤子さんは現れた。



「何やってたんですか! 周一がこんなに泣いているのに! それでも母親ですか!」



瑤子さんはオレを見て、小さな声で「ごめんなさい」と言った。

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