第48話 叶和 --side--
幸い周一は打ち身だけでどこにも異常は見つからず、念のため一日入院した後、家に帰って来た。
その日の午後だった。
昼間誰もいない時に、瑤子さんがオレの部屋にやってきた。
「叶和くん、相談があるの。叶和くんにしか相談できなくて……」
「何?」
「あのね……」
「何?」
「どうしたらいいのか……」
「はっきり言ってもらえませんか?」
「叶和くん……これ……どうしたらいいんだろう……」
瑤子さんに見せられたのは、中絶同意書だった。
「何で? もうひとり子供がいたって――」
「ごめんなさい。私がバカだから……全部私が悪いの……私のせいなの……」
「もしかして……兄貴の子供じゃ……ない?」
瑤子さんは黙ってうなずいた。
あの時の、あの見知らぬ男の……
ムカついた。
腹が立った。
それで、奪い取るようにその紙をとって、サインをした。
「叶和くん……」
「持ってけよ!」
サインをした同意書を瑤子さんに押し付けるように渡して家を出た。
それから数日後のことだった。
車で出かけていた瑤子さんは、河川敷を走っていて運転を誤り、車ごと川へ落ちて、帰らぬ人となった。
真っ先に自殺を疑った。
瑤子さんの事故の後、家族だけの葬式を済ませ、みんなが寝静まった後、瑤子さんの遺影を前に、兄貴が酒を飲みながら話しかけているのを聞いてしまった。
「真面目で、すぐ人を信じるような気のいいお前が……なぁ、お腹の子の父親、誰だったんだ?」
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