第56話

家を出て、少し先を行く叶和を追いかけた。



「……最初から、このつもりだったの?」


「あんなことがあるまでは、普通に兄貴と分け隔てなく育ててもらってたから、お礼だけは言いたかった。それで、お別れを言いたかった」


「余計なことをしてごめんなさい。後悔してる」


「なんで?」


「大切な家族との絆を切るようなことをさせてしまった」


「さっき、オレが言ったこと聞いてなかったの? 昔のことはもういいんだ。これからは沙也加がそばにいてくれるんでしょ?」


「ずっと一緒にいる。一緒にいたい」


「それだけでいい。どん底にいたオレを救ってくれたのも、未来のこと考えられるようになったのも、沙也加がいたから。だから、泣くのはやめて」


「ん……」


「このスマホ、もう捨てていい? もう拾わないでよ」



川に投げようとした叶和をとめた。



「そんな捨て方したらだめ」


「……うざっ」



それを聞いて、どんっと叶和を押したら、はずみで叶和の手からスマホが落ちて、「あっ!」と叫んだ時には、川の奥底に沈んでいた。



「今の、沙也加のせいだから」


「わたし? わたしのせい?」


「うっそ。2人とものせい。もう見つからないからあきらめて」



叶和は笑顔だった。



「ごめんね、SNSのことも黙ってて。見つかるかどうかもわからないもので、叶和のことを動揺させたくなかったから」


「なんでSNSがあるってわかった?」


「あるといーなぁ、って思ってただけ。あって良かった」





上椙さんに、探しているものが何なのかもわからないまま、ネット上に瑤子さんの痕跡がないか探してもらおうとお願いしていた時、見知らぬ女性がその役目をかって出てくれた。


いろいろ質問をされて、知ってることは少なかったけれど、瑤子さんの情報を女性に教えた。

その女性は、自分のノートPCを開くと、すごい速さでキーを叩き始めた。画面には英語や数字が映し出されては消えていく。いくつもウィンドウが開いては閉じ、いとも簡単に両親や瑤子さんの顔写真を探し出すと、そこから更に交友関係などを突き止め、ネット上の痕跡を洗い出し始めた。

わたしなんかには見ても全然わからなかったけれど、しばらくその時間が続いた後、SNSを見つけてくれた。


その女性は、海外を拠点とするコンピュータネットワークのシステム開発会社MIYABIの代表を務めるひとだと後で教えてもらった。


ソフトの共同開発の件で来日していて、社長の平賀さんと会社を見学しているところを偶然出会った。




バス停に向かって歩いている時、叶和が手をつないできた。

手をつなぐのは2回目。


バス停に貼られた時刻表を見ると、次のバスは15分後。


2人で並んでバスを待っていると、「沙也加」と呼ばれたので、叶和の方を向くと、そっとふれるだけの優しいキスをされた。

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